470ページ 債権
特定物債権と種類債権
(1)特定物債権
特定物とは、その物の個性に着目して引渡しの対象とされた物のことであり、特定物債権とは、この特定物の引渡しを目的とする債権のことです。
具体例をイメージ
例えば、不動産や美術品の引渡しを目的とする債権などである。

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保管しなければなりません。
これを善管注意義務といいます。

(2)種類債権
① 種類債権とは何か
種類債権とは、同じ種類の物の一定数量の引渡しが目的とされる債権のことであり、その目的物を種類物といいます。
種類債権の場合、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければなりません。
② 種類債権の特定
種類債権の場合、その種類物が市場に存在する限り債務者の調達義務がいつまでも存続することになります。
もっとも、これでは債務者の責任が不当に重くなってしまいます。
そこで、種類物の売買であっても、ある段階に達すると、売主が引き渡すべき目的物が「このリンゴ」といったように限定されることになります。
これを種類債権の特定といいます。
種類債権の特定が生ずるためには、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したことが必要です。
③ 特定の効果
種類債権の特定が生ずると、債務者は、特定した物を引き渡す債務を負うことになります。
したがって、以下の表のような効果が生ずることになります。

【種類債権の特定の効果】
1 債務者の保管義務が加重され、特定物の場合と同様に、善管注意義務を負うことになる
2 目的物が滅失すると引き渡すべき物がなくなるので、債務者の債務は履行不能となる
3 特約がない限り、特定によって目的物の所有権が債権者に移転する

(3)制限種類債権
制限種類債権とは、種類物について一定の制限を加えて目的物を限定した債権のことです。
種類債権は、他から入手が可能である限り履行不能とはなりませんが、制限種類債権は、制限の範囲内の物がすべて滅失すれば履行不能となります。
具体例をイメージ
例えば、Aの倉庫内のビール1ダースの引渡しを請求する債権などである。
 

債務不履行
学習のポイント
ここでは、債務者が債務を自主的に履行しない場合の処理について学習します。
債務不履行の3つの類型とその要件・効果はしっかり押さえておきましょう。

債務不履行とは何か
債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしないことです。
この債務不履行には、期限を過ぎる履行遅滞、履行が後発的に不可能となる履行不能、形の上では履行がなされたが、それが債務の本旨に従った完全な履行ではない不完全履行の3類型があります。
 

債務不履行の要件
(1)債務不履行の事実
① 履行遅滞
履行遅滞といえるためには、以下の3つの要件を満たすことが必要です。
参考
履行遅滞が生じた後に不可抗力によって債務が履行不能となった場合、債務者は、履行不能による損害につき賠償責任を負う。
 
【履行遅滞の要件】
1 履行が可能であること
2 履行期を徒過したこと
3 履行期に履行しないことにつき違法性があること(同時履行の抗弁権や留置権が存在しないこと)
 

② 履行不能
履行が不能かどうかは契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断されます。
例えば、引き渡すべき目的物が滅失した場合のみならず、不動産が第三者に二重に譲渡されて登記が経由された場合なども履行不能に当たります。
重要判例
仮登記が備えられただけでは、未だ履行不能とはならない。
 

③ 不完全履行
不完全履行は、損害のあり方という観点から大きく2つに分類できます。

【不完全履行の分類】
瑕疵型
給付の目的物に瑕疵がある場合
例えば、コンビニで弁当を買ったところ、この弁当が腐っていて食べられなかった場合。

拡大損害型
目的物の瑕疵が原因で、給付した目的物以外に損害が発生する場合
例えば、コンビニで弁当を買ったところ、この弁当が腐っていたが、これに気付かずに食べてしまい食中毒にかかって入院した場合。
 

(2)損害の発生・因果関係
債務不履行による損害賠償責任が発生するためには、損害の発生及びその損害と債務不履行の事実との間に因果関係があることが必要です。
参考
損害には、財産に対して加えられた財産的損害と、それ以外の精神的損害の両方が含まれる。
 

(3)金銭債務の特則
金銭の給付を目的とする債務の不履行による損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができませんので、帰責事由の有無を問わず損害賠償責任を負います。
なぜなら、金銭は相当の利息を支払えば容易に入手できるものであり、履行不能が考えられないからです。
また、債権者は、損害の証明をすることを要しません。
したがって、債権者は、債務不履行の事実だけを証明すればよいことになります。

債務不履行の効果
債務不履行があった場合、債権者は、履行の強制・損害賠償請求・解除といった3つの措置をとることができます。
(1)履行の強制
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、履行の強制を裁判所に請求することができます。
このように、債務不履行の場合、債権者に履行請求権が認められ、債権を強制的に実現することができます。
もっとも、具体的にどのような方法で債権が実現されるのかは、債務の種類ごとに異なっています。
重要判例
夫婦の同居義務は、債務者の自由意思の尊重という観点から、直接強制・間接強制ともに許されない。
 

【履行の強制】
〔意味〕
直接強制
債務者の財産に対して実力行使し、債務者の意思を無視して債権の内容を実現する方法
代替執行
債務者に代わって第三者に債務の内容を実現させ、それに要する費用を債務者から強制的に徴収する方法
間接強制
債務を履行しないことに対し一定額の金銭の支払いを命じることにより、債務者の履行を経済的に強制する方法
 
〔債務の態様〕
直接強制
引渡し債務
代替執行
代替的行為債務
間接強制
引渡し債務・行為債務(非代替的も含む)・不作為債務
〔具体例〕
直接強制
金銭債務・特定物債務・種類債務
代替執行
謝罪広告をする債務・建物を収去する債務
間接強制
絵のモデルになる債務・騒音を出さない債務・ある人に電話をしてはならない債務
 
 

(2)損害賠償請求
第415条(債務不履行による損害賠償)
1  
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2  
前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
① 債務の履行が不能であるとき。
②  債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示ししたとき。
③  債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
 
 

① 債務者の帰責事由
債務者の帰責事由(責めに帰すべき事由)とは、故意・過失又は信義則上、これと同視すべき事由のことです。
② 履行補助者の過失
履行補助者とは、債務者が債務を履行するにあたって使用する者のことです。
この履行補助者の過失は、信義則上 債務者の故意・過失と同視すべき事由ですから、債務者は、履行補助者の選任・監督に過失がなくても、債務不履行責任を負うとされています。
なぜなら、債務者は、履行補助者を使うことによって活動領域を広げ利益を得ている以上、履行補助者の過失についても債務者自身の責任を認める必要があるからです。
履行補助者の具体例をイメージ
例えば、家具の引渡し債務を負っている家具屋が依頼した運送業者などである。
重要判例
賃借人が賃貸人の承諾を得て賃貸不動産を転貸したが、転借人の過失により同不動産を損傷させた場合、賃借人は転借人の選任・監督について過失がなくても、賃貸人に対して債務不履行責任を負う。
参考
受寄者が寄託者の承諾を得て寄託物を第三者に保管させたが、当該第三者の過失により寄託物を損傷させた場合、受寄者は寄託者に対して債務不履行責任を負う。
 
③ 損害賠償の方法
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めるものとされています。
このように、損害賠償の方法は、金銭を支払うことによって損害が発生しなかった状態を回復する金銭賠償が原則とされています。
 
④ 損害賠償の範囲
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とします。
この趣旨は、債務不履行と関係のある損害をすべて損害賠償の範囲とすると、賠償しなければならない損害が無限に拡大するおそれがあることから、損害賠償の範囲を合理的に制限する点にあります。
ただし、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができます。
 
重要判例
・416条2項の文言上は「当事者」とされているが、ここでいう予見可能性は、債務者にとってのものであると解されている。
・予見すべきであったかどうかの判断時期は、債務不履行時とされている。
 
⑤ 損害額の調整 過失相殺
債務の不履行又はこれによる損害の発生・拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及び額を定めるものとされています。
これを過失相殺といいます。
これは、損害の発生・拡大が債務者の責めに帰すべき事由だけでなく、債権者の過失も原因となっていた場合に、損害のすべてについて債務者に負担させることは公平に反するからです。

⑥ 損害賠償額の予定
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができます。
この趣旨は、債務不履行による損害賠償を巡って損害の有無・損害賠償の範囲などについて紛争が生じることが多いため、このような紛争を避ける点にあります。
参考
違約金は、債務不履行に対する制裁であり、損害の填補を目的とするものではないので、損害賠償額の予定と性質を異にするものであるが、民法上は、賠償額の予定と推定されることになる。
 
 
(3)解除
① 解除とは何か
解除とは、契約成立後に生じた一定の事由を理由として、契約の効力を一方的に消滅させる意思表示のことです。
これは、契約の拘束力を受けることによって生ずる不利益を回避するための救済手段です。
② 要件
解除の要件は、以下のとおり、相当の期間を定めた催告が必要な場合とそうでない場合があります。
 
【債務不履行による解除の要件】
原則
相当の期間を定めた催告による解除
※ 相当の期間を経過した時における債務の不履行が、その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できない
例外
以下の場合、無催告解除が可能
① 債務が履行不能の場合
② 債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確にした場合
③ 債務の一部が履行不能又は債務者が債務の一部の履行を拒絶した場合において、残存部分のみでは契約をした目的を達成できないとき
④ 特定の日時又は一定の期間内において履行をしなければ、契約をした目的を達成できないとき
⑤ 債務者が債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかな場合

重要判例
・期間を定めずに催告をした場合でも、催告後相当な期間が経過した後に解除すれば、その解除は有効である
・履行不能が確実となった場合、弁済期前であっても、解除をすることができる
・特定物の売買契約における売主のための保証人は、特に反対の意思表示のない限り、売主の債務不履行により契約が解除された場合における売主の原状回復義務についても、保証の責任を負う。
③ 手続
契約の解除は、相手方に対する意思表示によってなされます。
この解除の意思表示は、撤回することができません。
当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみすることができます。
したがって、解除権が当事者のうちの1人について消滅したときは、他の者についても消滅することになります。
これを解除権の不可分性といいます。
④ 効果
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務(これを原状回復義務といいます)を負います。
もっとも、原状回復義務を理由として第三者の権利を害することはできません。
参考
・原状回復として金銭を返還するときは、その受領の時からの利息を付さなければならない

・解除権を行使しても、損害賠償請求をすることはできる。
重要判例
売買契約が解除された場合、目的物の引渡しを受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間、目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負い、これは、全部他人物売買において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、当該契約が解除された場合も同様である。
 
 

責任財産の保全
学習のポイント
責任財産の保全のための制度には、債権者代位権と詐害行為取消権の2種類があります。
判例からの出題が多い分野なので、判例を重点的に学習しましょう。
 
 

債権者代位権
第423条 債権者代位権の要件
1
債権者は、自己の債権を保全するため、必要があるときは、債務者に属する権利(「被代位権利」という)を行使することができる。
ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
2  
債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
3  
債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
 
 

(1)債権者代位権とは何か
事例
Aは、Bに対して100万円の貸金債権を有しており、Bは、Cに対して100万円の貸金債権を有していた。
Bは、無資力であるにもかかわらず、Cに対して100万円の支払いを請求しないので、Aは、Bに代わって、Cに対して100万円の支払いを請求した。
この事例のように、債務者Bが自らの権利を行使しないときに、債権者Aが債務者に代わってその権利を行使することを、債権者代位権といいます。
この趣旨は、強制執行の準備のために債務者の責任財産を保全する点にあります。
用語
責任財産:強制執行の対象物として、ある請求の実現のために提供される財産のこと。
 
 

(2)要件
① 債権保全の必要性
債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利(被代位権利)を行使することができるとされており、債権保全の必要性が要件とされています。
この債権保全の必要性とは、債務者が無資力であることを意味します。
もっとも、金銭債権の保全以外に用いられる債権者代位権の転用の場合は、債務者の無資力は要件とされていません。

重要判例
交通事故の被害者が、加害者が保険会社に対して有する自動車対人賠償責任保険の保険金請求権を代位行使する場合、加害者が無資力でなければならない。
具体例をイメージ
例えば、賃借人が賃貸人の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使する場合や、抵当権者が抵当不動産の所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使する場合などである。
 
 

② 被代位権利が債務者の一身専属権及び差押えを禁じられた権利ではないこと
債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、債権者代位権の対象となりません。
「一身に専属する権利」とは、特定の権利主体だけが行使できるとされている権利の総称のことです。
どのような権利が「一身に専属する権利」に当たるかは、個々の権利の性質や規定の趣旨などを考えて判断しなければなりませんが、認知請求権など身分上の権利の多くは「一身に専属する権利」に当たると考えられています。
 
 

【債権者代位権の対象】
代位行使することができる
① 登記請求権
② 妨害排除請求権(賃借人・抵当権者)
③ 債権者代位権
④ 消滅時効の援用権
⑤ 取消権や解除権などの形成権
代位行使することができない
① 債権譲渡の通知
② 名誉毀損による慰謝料請求権
※当事者間において具体的な金額が確定したときは、代位行使することができる
③ 遺留分・侵害額請求権
※権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合は、代位行使することができる
 
 

③ 債権の履行期の到来
債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができません。
ただし、保存行為は、この限りではありません。
具体例をイメージ
例えば、時効の完成猶予・更新のための請求や未登記の権利の登記などである。
 
 

④ 債務者が権利を行使していないこと
債権者代位権を行使するためには、債務者自らが自己の権利を行使していないことが必要です。
なぜなら、本来債務者だけが自由にできる権利行使に債権者が干渉する以上、その干渉は必要最小限に限られるべきだからです。
 
 

(3)行使方法
 
① 権利行使の名義
代位債権者は、債務者の代理人的な地位に立つわけではなく、自己の名で権利行使することができます。
 
② 代位行使の範囲
代位債権者は、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権額の範囲においてのみ被代位権利を行使できるにすぎません。
なぜなら、債権者代位権は債権の保全のために例外的に認められる制度であって、債務者の財産的自由を制約するものである以上、代位権行使の範囲も必要最小限の範囲に限られるべきだからです。
 
③ 請求の内容
請求の内容は、どのような権利を代位行使するかによって、以下のように異なってきます。
 
【債権者代位権に基づく請求の内容】
金銭債権・動産の引渡請求権
直接自己への給付を請求することができる
賃貸人の妨害排除請求権
直接自己に対して明渡しを請求することができる
所有権移転登記請求権
債務者名義への移転登記請求ができるにすぎず、直接自己名義への移転登記請求をすることはできない
 
 

詐害行為取消権
第424条(詐害行為取消請求)
1  
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
ただし、その行為によって利益を受けた者・「受益者」がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2  
前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3  
債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求・「詐害行為取消請求」をすることができる。
4  
債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
 

(1)詐害行為取消権とは何か
事例
Aは、Bに対して100万円の貸金債権を有していた。Bは、Cに対して100万円を贈与したことにより、無資力となったので、Aは、BC間の贈与を取り消した。

この事例のように、債務者が積極的に自己の財産を減少させるような行為(詐害行為)をしたときに、これを取り消す権利のことを、詐害行為取消権といいます。
この趣旨は、債権者代位権と同様、強制執行の準備のために債務者の責任財産を保全する点にあります。
 
 

(2)要件
 
① 被保全債権が金銭債権であること
詐害行為取消権の制度趣旨が責任財産の保全にあることから、被保全債権は金銭債権でなければならないのが原則です。
しかし、特定物引渡請求権も究極において損害賠償請求権に変わり得るものですから、特定物引渡請求権を有する者も、その目的物を債務者が処分したことにより無資力となった場合には、当該処分行為を詐害行為として取り消すことができます。
 
② 被保全債権の発生原因が詐害行為前に生じたものであること
債権者は、被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、詐害行為取消請求をすることができます。
 
重要判例
詐害行為の前に債権が成立していれば、その後、債権が譲渡されたとしても、譲受人は、詐害行為取消権を行使することができる。
したがって、詐害行為と主張される不動産の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たとえその登記が債権成立後にされたときであっても、詐害行為取消権を行使することはできません。
 
③ 債権者を害する行為であること
詐害行為取消権の対象となるのは「債権者を害する」行為とされており、これは、当該行為により債務者が無資力になることを意味します。
なお、一部の債権者への担保の供与又は債務の消滅に関する行為は、原則として詐害行為に当たりませんが、① 債務者が支払不能の時に行われ、② 債務者と受益者とが通謀して、他の債権者を害する意図をもって行われた場合には詐害行為となります。
重要判例
弁済につき詐害行為取消権を行使された者は、取消債権者からの返還請求に対して、自己の債権に係る按分額(弁済を受けた額を取消債権者の債権額と自己の債権額とで按分した額)の支払いを拒むことはできない。
 
④ 財産権を目的としない行為ではないこと
「財産権を目的としない行為」は、詐害行為取消権の対象となりません。
なぜなら、詐害行為取消権は、債務者の責任財産の保全を目的とする制度だからです。
この点については、以下の表にあるように、家族法上の行為が「財産権を目的としない行為」に当たり、詐害行為取消権の対象とならないのではないかが問題となります。
 
 

【詐害行為取消権の対象】
対象となるもの
・遺産分割協議
対象とならないもの
・相続の放棄
・離婚に伴う財産分与
※768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があれば、対象となる
 

⑤ 債務者が債権者を害することを知っていたこと
詐害行為取消権を行使するためには、債務者の行為が債権者を害することを知ってなされたことが必要です。
 
重要判例
債務者の悪意については、債権者側に立証責任があるが、受益者・転得者の悪意については、受益者・転得者側に立証責任がある。
 
⑥ 受益者がその行為の時において債権者を害すべき事実を知っていたこと
詐害行為取消権は、受益者がその行為の時において債権者を害すべき事実を知っていたときに限り、行使することができます。
 
⑦ すべての転得者がそれぞれの転得時において債権者を害すべき事実を知っていたこと
転得者を相手方とする場合、すべての転得者がそれぞれの転得時において債権者を害すべき事実を知っていたときに限り、詐害行為取消請求をすることができます。
 
 

(3)行使方法
詐害行為取消請求は、債権者代位権の場合と異なり、裁判所に請求しなければなりません。
なぜなら、他人間の法律行為を取り消すというのは重大な効果であり、第三者にも影響が及ぶので、要件充足の有無を裁判所に判断させる必要があるからです。
 

(4)出訴期間
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができません。
また、詐害行為の時から10年を経過したときも同様です。
 

(5)効果
① 詐害行為取消請求の被告
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者ではなく、受益者又は転得者を被告としなければなりません。
② 取消しの範囲
詐害行為の取消しの範囲は、以下のとおりです。
 
【取消しの範囲】
金銭の処分の場合
目的物が金銭のように可分の場合、自己の債権の額の限度においてのみ取り消すことができる
金銭以外の財産の処分の場合
詐害行為となる債務者の行為の目的物が、不可分な一棟の建物であるときは、たとえその価額が債権額を超える場合でも、債権者は、その行為の全部を取り消すことができる
 

③ 取消しの内容
債権者は、原則として財産の返還を請求することができますが、財産の返還が困難であるときは、その価額の償還を請求することができます。
債権者が直接自己に対する返還請求をできるかについては、以下のとおりです。
 
【直接自己に対する返還請求の可否】
不動産の返還請求
直接 自己に対する所有権移転登記手続を請求することはできない

動産・金銭の返還請求
直接 自己への引渡しを請求できる
 
重要判例
債権者が金銭の返還を受けた場合、取消債権者は、その金銭を他の債権者に分配する義務を負わない。
 
④ 取消しの効果
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びすべての債権者に対してもその効力を生じます。
したがって、債権者は自己の債権について、詐害行為として取り消したとしても、受益者から取り戻した財産から他の債権者に優先して弁済を受けることはできません。
 
重要判例
詐害行為取消権は、総ての債権者の利益のために債務者の責任財産を保全する目的において行使されるべき権利であるから、債権者が複数存在するときであっても、取消債権者は、その有する債権額全額について取り消すことができる。

なお、債権者代位権と詐害行為取消権の違いをまとめると、以下のようになります。
 
【債権者代位権と詐害行為取消権のまとめ】
〔被保全債権〕
債権者代位権
① 原則として弁済期にあることが必要
② 代位目的たる債権より前に成立したことは不要

詐害行為取消権
① 弁済期にあることは不要
② 詐害行為の前に成立したことが必要
 

〔行使方法〕
債権者代位権
裁判外でも行使できる
詐害行為取消権
裁判上の行使が必要

〔期間制限〕
債権者代位権
なし
詐害行為取消権
債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを知った時から2年、行為時から10年
 
 

多数当事者の債権・債務
学習のポイント
多数当事者の債権・債務には、分割債権 債務・不可分債権 債務・連帯債務・保証債務といった形態があります。
条文からの出題が多いので、条文をしっかり押さえましょう。
 

分割債権・債務
 
事例
AとBは、2人で共同してCから100万円を借りたが、その際に何も特約はなされなかった。
債権者又は債務者のいずれか一方が複数である債権・債務関係については、平等の割合で分割される分割債権又は分割債務が原則とされています。
したがって、上の事例では、AとBがCに対してそれぞれ50万円ずつの貸金債務を負うことになります。
 


不可分債権・債務
事例AとBは、2人で共同して所有している自動車をCに対して売り、代金の支払いも受けたが、未だ自動車を引き渡していない。
この事例では、AとBの2人がCに対して自動車の引渡し債務を負っていますから、分割債務となるのが原則です。
しかし、そうだとすると、AとBはそれぞれ自動車を まっぷたつに割って引き渡すことになってしまいますが、Cからしたら、そんな自動車はほしくないでしょう。
そこで、上の事例のように、債務の目的が性質上不可分である場合には、分割債務とはならず、債権者は、債務者のうちの1人に対して全部の履行を請求することができます。
これを不可分債務といいます。(債権者が複数の場合は不可分債権となります)
 
【不可分債権と不可分債務】
〔具体例〕
不可分債権
① 共有者の所有権に基づく共有物返還請求権
② 共同賃貸人の賃借人に対する賃料債権
不可分債務
① 共有物の引渡し債務
② 共同して賃借した不動産の賃料支払債務

〔対外的効力〕
不可分債権
各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる
不可分債務
1人に対し、又は同時にもしくは順次にすべての債務者に対し、履行を請求することができる

〔1人について生じた事由〕
不可分債権
履行の請求、弁済やこれに準ずる事由を除き、他の不可分債権者に対して効力を生じない
不可分債務
弁済やこれに準ずる事由を除き、他の不可分債務者に対して効力を生じない
 
 

連帯債権・債務
 
(1)連帯債権・債務とは何か
 
事例
ABCは、3人で共同してDから300万円を借り入れ、その際に3人の債務は連帯債務(負担部分は平等)とする特約がなされた。
連帯債務とは、数人の債務者が同一内容の給付について、各自が独立に全部の給付をなすべき債務を負担し、そのうちの1人の給付があれば他の債務者の債務もすべて消滅する多数当事者の債務のことです。(債権者が複数の場合は連帯債権となります)
この事例で見ますと、ABC3人は、それぞれ100万円ずつの債務を負うのではなく、それぞれ300万円全額の債務を負うことになります。
そして、3人のうち1人が300万円を支払えば、他の2人の債務も消滅することになります。
次に、負担部分とは、各債務者が最終的に負担する額のことです。
この事例では、負担部分は平等とされていますから、ABC3人の負担部分はそれぞれ100万円ずつとなります。
したがって、Aが300万円全額を支払ったとしても、Aは最終的に100万円を負担すればよいのですから、BCの2人に対して100万円ずつの支払いを請求することができます。
このように、他人の債務を弁済した人がその他人に対して自分の財産が減少した分の返還を請求する権利のことを、求償権といいます。
 
 
重要判例
連帯債務者の1人に対する債権のみを譲渡することもできる

(2)連帯債務の性質
数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の1人に対し、又は同時もしくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができます。
また、連帯債務者の1人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は有効となります。
なぜなら、連帯債務は各債務者が別個独立の債務を負担するものであるところ、その成立原因も個別的に取り扱うのが当事者の意思に適するからです。
 

(3)連帯債務者の1人に生じた事由
連帯債務者の1人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じないのが原則です。
具体例をイメージ
例えば、債務の承認・債権譲渡の通知・時効の利益の放棄などである。

しかし、以下のような例外があります。
 
 
【連帯債務の絶対効】
債務の全部について効力を生じる
① 弁済・代物弁済
② 更改
③ 自己の債権による相殺
④ 混同
負担部分のみ効力を生じる
他の債務者の反対債権による履行拒絶
 
 
法改正情報
民法改正により、債務の免除と消滅時効の完成は、絶対効が生じないこととなりました。
 
 

(4)求償関係
 
① 求償権
連帯債務者の1人が弁済をしたときは、その連帯債務者は、弁済額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分に応じた求償権を有します。
もっとも、連帯債務者の中に償還をする資力がない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担します。
なぜなら、弁済者だけに償還無資力者の負担部分を負わせるのは不公平だからです。
 
② 通知を怠った連帯債務者の求償の制限
連帯債務者の1人が弁済することを他の連帯債務者に通知しないで弁済をした場合、他の連帯債務者は、債権者に対抗できる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもって弁済をした連帯債務者に対抗することができます。
連帯債務者の1人が事前の通知を怠った場合、他の連帯債務者の債権者に対する対抗事由を保護する必要があるからです。
また、連帯債務者の1人が弁済をしたことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をしたときは、弁済をした連帯債務者は、自己の弁済を有効であったものとみなすことができます。
連帯債務者の1人が事後の通知を怠った場合、他の連帯債務者が二重に弁済させられることを防止する必要があるからです。
 
 

保証債務
(1)保証債務とは何か
 
事例
AがBから100万円を借り入れる際、BとCの間で、Aが100万円を返せなかった場合にはCが代わりに100万円を支払う旨の契約がなされた。
保証債務とは、債務者が債務を履行しない場合に、その債務者(これを主たる債務者といいます)に代わって履行する債務のことです。
そして、保証債務を負っている人のことを保証人といいます。
 

(2)保証債務の法的性質
 
① 付従性
保証債務は主たる債務の存在を前提とし、主たる債務に従たる性質を有しています。
この性質を付従性といいます。
したがって、主たる債務が成立しなければ保証債務も成立せず、また、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅します。
 
参考
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、主たる債務の限度に減縮される
 
また、保証債務は、主たる債務に関する利息・違約金・損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含します。
もっとも、保証人は、保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができます。
 
② 随伴性
主たる債務が譲渡されると、保証債務もそれに伴って譲渡されることになります。この性質を随伴性といいます。
 
③ 補充性
保証人は、主たる債務が履行されないときに初めて自己の債務を履行する責任を負います。
この補充性は、以下の2つの抗弁権をその内容としています。
 
 

催告の抗弁権
債権者が保証人に履行の請求をしたときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる
検索の抗弁権
債権者が主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行をすることが容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない

参考
・物上保証人には、補充性(催告の抗弁権・検索の抗弁権)が認められていない。
・主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、催告の抗弁権を行使することができない。
 

(3)保証債務の成立
 
① 保証契約
保証債務は、保証人と債権者との間の保証契約によって成立します。
もっとも、この保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じません。
この趣旨は、安易に保証契約を成立させないようにする点にあります。
引っかけ注意!
保証債務は、保証人と債務者の契約によって成立するわけではありません。
 
② 保証人の資格
通常、保証人となるためには別段資格を要しませんから、制限行為能力者でも保証人になることができます。
しかし、債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、行為能力者であること・弁済をする資力を有することという要件を具備する者でなければなりません。
 
③ 主たる債務の存在
主たる債務が行為能力の制限を理由に取り消された場合、付従性から保証債務も消滅します。
もっとも、保証人が保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務と同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定されます。
 

(4)保証人の求償権
保証人は主たる債務者が負う債務の最終的な負担者ではありませんので、保証人が保証債務を履行した場合、主たる債務者に対して求償権を取得します。
保証人の求償権については、以下の表のとおりです。
 
【保証人の求償権】
 
〔弁済期前〕
委託を受けた保証人 求償権あり
委託を受けていない保証人で
主たる債務者の意思に反しない場合も反する場合も、求償権なし
 
〔弁済期後〕
全てにおいて、求償権あり
 
〔求償できる範囲〕
委託を受けた保証人
弁済があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償も含まれる

委託を受けていない保証人で
主たる債務者の意思に反しない場合 主たる債務者が弁済の当時に利益を受けた限度
主たる債務者の意思に反する場合 求償の時点での現存利益の限度
 

重要判例
物上保証人は、被担保債務の弁済期が到来したとしても、債務者に対し、あらかじめ求償権を行使することができない。
 
 

(5)特殊な保証形態
 
① 連帯保証
連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する旨 合意した保証のことです。
連帯保証も保証債務の一種であり主たる債務に付従するので、付従性から生ずる効果は通常の保証債務と同様となります。
もっとも、連帯保証には、通常の保証と異なり補充性がありません。
したがって、連帯保証人は、催告の抗弁権・検索の抗弁権を有しません。
連帯保証人について生じた事由の効力については、連帯債務の規定が準用されます。

【主たる債務者と保証人に生じた事由の効力】
 
〔主たる債務者に生じた事由〕
通常の保証も連帯保証も、保証人に対しても効力を生ずる
保証人に生じた事由

〔主たる債務を消滅させる事由(弁済・代物弁済・保証人自身の債権による相殺・更改など)〕
通常の保証も連帯保証も、主たる債務者に対しても効力を生ずる

〔混同〕
通常の保証は、主たる債務者に対しては効力を生じない
連帯保証は、主たる債務者に対しても効力を生ずる

〔その他の事由〕
通常の保証も連帯保証も、主たる債務者に対しては効力を生じない
 
 

重要判例
主たる債務者が時効の利益を放棄した場合でも、保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することができる。
 
参考
保証人は、主たる債務者が債権者に対して相殺権を有するときは、主たる債務者が債務を免れるべき限度において、履行拒絶ができる。
 
 

② 共同保証
共同保証とは、同一の主たる債務について数人の保証人がある場合のことです。
共同保証の場合、各保証人は、債権者に対しては平等の割合をもって分割された額についてのみ、保証債務を負担することになります。
これを分別の利益といいます。
共同保証人の1人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときは、他の共同保証人に対して求償権を有します。
 
重要判例
連帯保証の場合、分別の利益はない。
 
 

③ 根保証
根保証とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証のことです。
そして、根保証のうち、保証人が自然人であるもののことを、個人根保証契約といい、極度額を定めなければ、その効力を生じません。
この個人根保証契約の制度は、根保証契約が保証人に過大な負担を課すものであり、悪質な金融業者によって不当に利用される危険性があることから、保証人を経済的破綻から救済するために創設されたものです。
 
参考
保証人が法人である場合は、個人根保証契約に当たらず、極度額の定めは不要である。
 
 

(6)保証人の保護の拡充
 
①債権者の情報提供義務
保証人は主たる債務者の履行状況を常に知り得るわけではないため、保証契約締結後も保証人を保護するべく、債権者に主たる債務の履行状況について情報提供義務を課しました。
 
【債権者の情報提供義務】
〔時期〕
保証人の請求があった場合
保証人の請求時
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合
主たる債務の期限の利益喪失を知った時から2 ヶ月以内
 

〔相手方〕
保証人の請求があった場合
委託を受けた保証人(個人・法人)
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合
保証人(委託の有無を問わない、個人のみ)
 

〔内容〕
保証人の請求があった場合
主たる債務の元本・利息・違約金・損害賠償などの不履行の有無・残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合
主たる債務者が期限の利益を喪失したこと
 

〔義務違反の効果〕
保証人の請求があった場合
規定なし
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合
遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生じていたものを除く)にかかる保証債務の履行請求 不可
 
 

② 事業用融資における個人保証の制限
金融機関による中小企業への融資の際、経営者の親族・友人など第三者の個人保証を求めることが多いところ、事業用融資は相当程度高額になるため、保証責任の追及を受けた個人が生活破綻に陥ることが多かったことから、個人保証を制限する規定が設けられました。
すなわち、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日 前 1ヶ月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じません。
 
参考
保証人が法人である場合は、公正証書の作成は不要である。
 


債権譲渡
 
学習のポイント
債権譲渡は、未だ択一式で出題されたことのない 大穴のテーマです(記述式は2度出題されています)。
判例が多く出ているところなので、判例を中心に学習しておきましょう。
 

債権譲渡とは何か
 
事例
Aは、Bに対して有していた100万円の貸金債権を、Cに対して譲渡した。
債権譲渡とは、債権の同一性を保ちながら契約によって債権を移転させることです。
この事例の場合、Cは、Bに対して100万円の支払いを請求することができます。
債権は、原則として自由に譲渡することができます。
 

譲渡性の制限

(1)債権の性質による制限
債権の性質が譲渡を許さないときは、債権譲渡をすることができません。
これは、債権が債権者・債務者の個人的関係を基礎としていて、債権者が変わることによって給付の内容が変質してしまうような場合のことです。
具体例をイメージ
例えば、画家に肖像画を描かせる債権などである。
 
(2)法律上の譲渡制限
法律が 生活保障の見地から本来の債権者に対してのみ 給付させようとする債権については、明文で譲渡が禁止されています。
具体例をイメージ
例えば、扶養を受ける権利は、処分することができないとされており、扶養請求権の譲渡は禁止されている。

(3)譲渡制限特約
当事者が債権譲渡を禁止・制限する旨の意思表示(譲渡制限特約)をした場合でも、債権譲渡の効力は妨げられません。
譲渡制限特約は、悪意又は重過失の第三者に対抗することができます。
 
参考
譲渡制限特約のある債権であっても、差押債権者の善意・悪意、過失の有無を問わず、転付命令(強制的に債権を移転する旨の裁判所の命令)によって移転することができる。
 

債権譲渡の対抗要件
 
(1)対抗要件の構造
 
事例1
Aは、Bに対して有していた100万円の貸金債権を、Cに対して譲渡した。
その後、Cは、Bに対して100万円の支払いを請求した。
 
事例2
Aは、Bに対して有していた100万円の貸金債権を、Cに対して譲渡した後、Dに対してもこの貸金債権を譲渡した。
その後、Cは、Bに対して100万円の支払いを請求した。
 
 
債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができません。
したがって、1の事例において、Cは、通知又は承諾がなければ、Bに対して100万円の支払いを請求することができません。
 
次に、この通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができません。
したがって、2の事例において、Cは、確定日付のある証書による通知又は承諾がなければ、Dに対して貸金債権の取得を対抗することができません。
 
 

(2)対抗要件の構成要素
債権譲渡の対抗要件である通知又は承諾は、以下の表のようなルールに従ってなされなければなりません。
 
【債権譲渡の対抗要件】
〔主体〕 
通知 譲渡人
承諾 債務者
 
〔客体〕
通知 債務者
承諾 譲渡人でも譲受人でもよい
 
〔時期〕
譲渡前 
通知 不可
承諾 譲受人が特定されていれば対抗可能
譲渡後は通知・承諾 どちらも可能
 
 

重要判例
譲受人が譲渡人に代位して通知することはできない。
 

(3)優先劣後の決定
債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって定めるべきではなく、確定日付のある通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時の先後によって決定されます。
確定日付のある通知が同時に到達した場合は、各譲受人は、債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額を請求することができ、譲受人の1人から弁済の請求を受けた債務者は、単に同順位の譲受人が他に存在するからといって弁済の責任を免れることはできません。
 
 

よくある質問
Q
判例は、いずれの債権者も全額請求することができるとしているけど、これだと債務者が二重に支払うことになってかわいそうじゃないですか?
アンサー
この判例がいずれの債権者も全額請求することができるとしているのは、どちらか一方に対して支払いがなされる前の話です。
債務者がどちらか一方に対して支払いをなした場合は、すでに支払いをなした旨を主張して他方からの請求を拒むことができます。
そして、支払いを受けられなかった債権者は、支払いを受けた債権者に対して、債権額を按分した額を不当利得として請求するという事後処理がなされます。
だから、債務者がかわいそうな結果にはなりません。
 
 

債権譲渡の効果
債権譲渡がなされると、債権は同一性を失わずに移転し、各種の抗弁もこれに伴って当然に移転します。
そして、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができます。
 
具体例をイメージ
対抗しうる事由の例としては、債権の不成立、譲渡人に対する弁済による債権の消滅、相殺による債権の消滅などが挙げられる。
 

債務引受
 
(1)債務引受とは何か
債務引受とは、債務者の債務を引き受け自らが債務者となることです。
債権譲渡は債権者が債権を譲渡するものであるのに対し、債務引受は引受人が債務の譲渡を受けるものであり、債務引受は債権譲渡の裏返しであるといえます。
債務引受には、併存的債務引受と免責的債務引受の2種類があります。
 

(2)併存的債務引受
併存的債務引受とは、引受人が債務者と同一内容の債務を引き受けることです。
併存的債務引受は、保証に類似しますから、債務者の意思に反しても、債権者と引受人の契約でなすことができます。
併存的債務引受があった場合、債務者と引受人は、債権者に対し、連帯債務を負います。
 
参考
債務者と引受人の契約でなすこともでき、この場合、債権者が引受人に対して承諾をした時に契約の効力が生じる。
 

(3)免責的債務引受
免責的債務引受とは、債務の同一性を保ちながら債務が引受人に移転し、債務者が債権債務関係から離脱することです。
免責的債務引受は、債権者と引受人の契約でなすことができます。
この場合、債権者が債務者に対して契約をした旨を通知した時に契約は効力を生じます。
 
参考
債務者と引受人が契約をし、債権者が引受人に対して承諾をすることによってもできる。
 


契約上の地位の移転
 
契約上の地位の移転とは、契約当事者としての地位を承継させる契約のことです。
契約上の地位の移転をするためには、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした上で、契約の相手方の承諾が必要となります。

参考
賃貸借の目的となっている不動産の所有者がその所有権とともに賃貸人の地位を移転する場合、賃借人の承諾は不要である。
 
 
 

債権の消滅
学習のポイント
債権の消滅事由には、弁済、代物弁済、相殺などがあります。
過去の出題履歴からしますと、弁済・相殺を重点的に学習し、代物弁済は一読しておく程度で充分でしょう。

弁済
 
(1)弁済とは何か
 
事例
AとBは、5月1日に、Aの所有する土地をBに売却する旨の契約をし、履行期は6月1日とされた。その後、6月1日に、Aは土地をBに引き渡し、BはAに代金を支払った。

弁済とは、債権の給付内容を実現することです。
この事例では、AがBに対して代金債権、BがAに対して土地の引渡し債権を有していますから、Aがなした土地の引渡しやBがなした代金の支払が弁済に当たります。

(2)要件
 
① 弁済の内容
弁済の内容としては、債務の本旨に従ったものでなければならないのが原則です。
何が債務の本旨に従った弁済であるかは、当事者の意思によって定まりますが、民法には当事者の意思を補うため以下のような規定が置かれています。

参考
債務者が元本のほか利息・費用を支払うべき場合において、弁済者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、①費用、②利息、③元本の順に充当しなければならない
 

【弁済の内容】
特定物債権
債権の発生原因・取引上の社会通念に照らして引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない
種類債権
中等の品質を有する物を給付しなければならない。
 
 

② 弁済の場所
弁済の場所は、通常は合意や慣習によって決定されます。
もっとも、弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければなりません。
 
 
③ 弁済の費用
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とされます。
もっとも、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担となります。
 
具体例をイメージ
例えば、目的物の輸送を必要とする場合の運送費や荷造費などである。
 
 

(3)第三者弁済
第三者弁済とは、第三者が他人の債務を自己の名において弁済することです。民法は、第三者弁済を原則として認めています。
もっとも、以下のような場合には、第三者弁済が有効となりません。
 
【第三者弁済が有効とならない場合】
1 債務の性質が許さない場合
2 当事者が反対の意思を表示した場合
3 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者が債務者又は債権者の意思に反して弁済した場合
 
※ 債務者の意思に反するときでも、そのことを債権者が知らなかったときは、弁済は有効
※ 債権者の意思に反するときでも、第三者が債務者の委託を受けて弁済することを債権者が知っていたときは、弁済は有効
 
 
具体例をイメージ
例えば、芸術家の創作や学者の講演などである。
 

重要判例
借地上の建物の賃借人は、借地人の意思に反していても、地代を弁済することができる。
 
 

(4)受領権者としての外観を有する者に対する弁済
受領権限のない者に対して弁済がなされても有効な弁済とはならず、真の債権者から請求されれば、債務者は再度弁済しなければならないのが原則です。
しかし、受領権者としての外観を有する者に対してした 弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がないときに限り、その効力を有します。
この趣旨は、誰が見ても受領権者らしい者に善意無過失で弁済した債務者を保護する点にあります。
 
具体例をイメージ
例えば、銀行預金の通帳・印鑑を所持している泥棒、債権譲渡が無効な場合の債権譲受人などである。
 
 

(5)弁済の提供
 
① 弁済の提供とは何か
弁済の提供とは、債務者側でなし得る必要な準備行為をして、債権者の受領を求める行為のことです。
 
② 効果
債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れます。
したがって、損害賠償や強制履行を請求されず、また、双務契約の場合には解除されません。
 
③ 方法
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならないとされており、これを現実の提供といいます。
もっとも、債権者があらかじめ弁済の受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告すれば足りるとされており、これを口頭の提供といいます。
 

重要判例
債権者が契約の存在を否定するなど、弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は口頭の提供をしなくても債務不履行責任を免れる。

具体例をイメージ
「債権者の行為を要するとき」の例としては、取立債務の場合や、相手方の持ってきた車を修理する債務のように債権者の先行的協力行為が必要とされる場合が挙げられる。
 

(6)弁済による代位
 
① 弁済による代位とは何か
 
事例
Aは、Bから1000万円を借り入れ、これを担保するため、自己の所有する家屋に抵当権を設定した。
そして、この貸金債務をCが保証した。
その後、CがAに代わって貸金債務を弁済した。
 
 
この事例において、CはAに対して求償権を取得します。
そして、Bの有していた抵当権をCに移転させ、Cの求償権の行使においてBと同様の地位を与えるのが、債務者に代わって弁済をした者の保護になり、公平の見地からも妥当です。
これを弁済による代位といい、このような弁済を代位弁済といいます。
 
 
② 要件
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位できます。
これに対して、弁済をするについて正当な利益を有しない者は、債権者から代位弁済があった旨を債務者に通知するか、債務者が代位弁済を承諾しなければ、弁済による代位を対抗することはできません。
 
 
具体例をイメージ
「正当な利益を有する者」の例としては、

債権者との関係では自ら債務を負うが、債務者との関係では実質上 他人の債務の弁済となる者(連帯債務者・保証人)

自らは債務を負わないが、債務者の意思に反してでも弁済し得る利害関係を有する第三者(物上保証人・抵当不動産の第三取得者・後順位抵当権者)が挙げられる。

③ 効果
債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができます。
参考
債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、単独で抵当権を実行できるが、配当については、債権者が代位者に優先する。
 
 

参考
債権の一部について代位弁済があった場合で、残りの債務について債務不履行があるときは、債権者のみが契約を解除することができる。
 
 
④ 代位をなすべき者が複数の場合
弁済による代位をなすべき者が複数の場合の処理は、以下のとおりです。
 
 
 

【代位をなすべき者が複数の場合の処理】
保証人と第三取得者の関係
第三取得者は、保証人に対して代位することができない
第三取得者相互間・物上保証人相互間の関係
第三取得者・物上保証人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者・物上保証人に対して代位する
保証人と物上保証人の関係
保証人と物上保証人の間においては、その数に応じて、債権者に代位するが、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、代位する
 

代物弁済
 
(1)代物弁済とは何か
弁済者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて 他の給付をすることにより債務を消滅させる者の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有するとされており、これを代物弁済といいます。
 
具体例をイメージ
例えば、100万円の借金がある場合に、現金がないから 自己所有の宝石を引き渡す場合などである。

(2)要件
代物弁済の要件は、以下の3つです。

【代物弁済の要件】
1 代物弁済契約がなされること
2 本来の給付と異なる 他の給付がなされること
3 給付が本来の弁済に代えてなされること
 
参考
本来の給付と代物弁済としてなされた給付が価値において釣り合っていることは、要件とされていない。

(3)効果
 
① 債務の消滅
代物弁済の効果は、債務の消滅です。
もっとも、本来の弁済に代えて不動産の所有権を移転する場合には、当事者がその意思表示をするだけでは足りず、登記を完了して第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ、債務は消滅しません。
重要判例
債権者への所有権移転の効果は、176条に従い、代物弁済契約の意思表示によって生じる。
 
② 目的物が契約内容不適合
代物弁済は、債権の消滅と他の給付とが対価関係に立つ有償契約ですから、代物弁済の目的物が契約内容不適合であった場合、売買の担保責任の規定が準用され、担保責任を追及することができる場合があります。
 

相殺
 
(1)相殺とは何か
 
事例
Aは、Bに対して100万円の貸金債権を有しており、Bは、Aに対して100万円の貸金債権を有していた。
そこで、Aは、両債権を相殺する旨の意思表示をした。

相殺とは、債権者と債務者が相互に同種の債務を有する場合に、一方的意思表示により双方の債務を対当額において消滅させることです。
そして、相殺をしようとする側の債権(Aの債権)を自働債権、相殺される側の債権(Bの債権)を受働債権といいます。

(2)要件
 
① 相殺適状
相殺適状とは、相殺をするのに適した状態のことです。
この相殺適状にあるとするためには、以下の要件が必要です。
【相殺適状の要件】

2人が互いに債務を負担すること
両債務が同種の目的を有すること
両債務が弁済期にあること
両債務が性質上相殺を許さないものではないこと
 

参考
・両債務が同種の目的を有していれば、双方の債務の履行地が異なるときであっても、相殺をすることができる。
・受働債権の期限の利益は放棄することができるから、自働債権が弁済期にあれば相殺することができる。

具体例をイメージ
例えば、相互に労務を提供する債務を負担している場合や、相互に騒音を出さないという不作為債務を負担している場合のように、現実の履行がないと意味がない場合には、相殺をすることができない。
 
 
② 時効と相殺
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺適状にあった場合には、その債権者は、相殺をすることができます。
この趣旨は、すでに生じている相殺への期待を保護する点にあります。
 
 
③ 相殺の禁止事由
当事者が相殺を禁止・制限する意思表示をした場合には、悪意又は重過失の第三者に対抗することができます。
また、以下のような場合には、相殺が禁止されます。
 

【相殺の禁止事由】
自働債権とする相殺が禁止される場合
同時履行の抗弁権や催告・検索の抗弁権が付いた債権を自働債権として相殺することはできない。
受働債権とする相殺が禁止される場合
① 悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権
② 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権
③ 差押禁止債権
④ 支払の差止め(差押え)を受けた債権
 

重要判例
この趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済による損害の填補を受けさせるとともに、不法行為の誘発を防止する点にあるから、悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺は可能である。
 
参考
自働債権が差押え後に取得されたものでなければ、両債権の弁済期の前後を問わず、相殺することができる。
 
 
(3)方法
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってするものであり、条件又は期限を付けることはできません。
 
 
(4)効果
相殺の効果は、各債務者が、その対当額について債務を免れることです。
そして、この効果は、相殺適状時にさかのぼって生じます。