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債権・契約総論
1 契約の分類
(1)双務契約と片務契約
意味
双務契約
契約当事者が互いに対価的債務を負担する契約
片務契約
契約当事者が互いに対価的債務を負担しない契約
具体例
双務契約
売買・書面等でする消費貸借・使用貸借・賃貸借・請負・有償委任・有償寄託
片務契約
贈与・書面によらない消費貸借・無償委任・無償寄託
区別の実益
双務契約には同時履行の抗弁権・危険負担の規定の適用があるが、片務契約にはこれらの規定の適用がない
(2)有償契約と無償契約
意味
有償契約
契約当事者が互いに対価的出費をする契約
無償契約
契約当事者が互いに対価的出費をしない契約
具体例
有償契約
売買・賃貸借・請負・有償委任・有償寄託・利息付き消費貸借
無償契約
贈与・使用貸借・無償委任・無償寄託・無利息消費貸借
区別の実益
有償契約には売買の規定(担保責任など)の適用があるが、無償契約にはこれらの規定の適用がない
(3)諾成契約と要物契約
意味
諾成契約
契約当事者の合意のみで成立する契約
要物契約
契約当事者の合意のほかに目的物の引渡しをすることが成立要件である契約
具体例
諾成契約
贈与・売買・書面等でする消費貸借・使用貸借・賃貸借・請負・委任・寄託
要物契約
書面によらない消費貸借
契約の成立
(1)申込みと承諾
契約は、申込みと承諾が合致することで成立します。
なお、承諾者が、申込みに条件を付し、その他 変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなされます。
(2)隔地者間の契約
隔地者間の契約とは、離れた者どうしが手紙で交渉して契約を成立させる場合のように、対話者間のように申込みと承諾がその場でなされるのではない場合のことです。
この隔地者間の契約の成立については、民法が様々な規定を設けています。
① 申込みの撤回
申込みの撤回については、以下のような処理がなされます。
【申込みの撤回】
到達前
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずるので、申込みが到達する前なら撤回することが可能
重要判例
97条1項にいう「到達」とは、相手方が了知可能な状態に置かれたときのことであり、必ずしも 相手方が 現実に了知することを要しない
到達後
承諾期間を定めた契約の申込みの場合
撤回権を留保した場合を除き、撤回不可
承諾期間を定めない契約の申込みの場合
撤回権を留保した場合を除き、承諾通知を受けるのに相当な期間撤回不可
申込者が申込みに対して承諾期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失います。
参考
申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができるので、これに対する承諾を行えば契約は成立する。
② 申込後の死亡・行為能力喪失
意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられません。
もっとも、申込みの場合には例外として、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示した場合又はその相手方が承諾の通知を発するまでに申込者の死亡・意思能力の喪失・行為能力の制限の事実を知っていた場合には、効力を失います。
同時履行の抗弁権
第533条 (同時履行の抗弁)
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。
ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
(1)同時履行の抗弁権とは何か
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます。
これを同時履行の抗弁権といいます。
この趣旨は、双務契約の当事者間の公平を図る点にあります。
(2)要件
①1個の双務契約から生じた相対立する債務が存在すること
1個の双務契約から生じた相対立する債務として、同時履行の関係が認められるかどうかは、以下のとおりです。
【同時履行の関係】
同時履行の関係にある
① 建物買取請求権が行使された場合の土地明渡義務と買取代金支払義務
② 債務の弁済と受取証書の交付義務
③ 詐欺により買主が契約を取り消した場合の当事者双方の原状回復義務
④ 解除に基づく当事者双方の原状回復義務
同時履行の関係にない
① 造作買取請求権が行使された場合の建物明渡義務と買取代金支払義務
② 賃貸借終了時における敷金返還義務と建物明渡義務
③ 債務の弁済とその債務の担保のために経由された抵当権設定登記の抹消義務
② 相手方の債務が弁済期にあること
相手方の債務が弁済期にないときは、同時履行の抗弁権を行使することはできません。
③ 相手方が自己の債務の履行又はその提供をしないで履行を請求すること
双務契約の当事者の一方は、相手方から履行の提供を受けても、その提供が継続されない限り、同時履行の抗弁権を失いません。
重要判例
双務契約において、当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思が明確な場合には、相手方において自己の債務の弁済の提供をしなくても、その当事者の一方は自己の債務の不履行について履行遅滞の責任を免れることができない。
(3)効果
当事者の一方が相手方に対して訴訟上債務の履行を請求した場合、同時履行の抗弁権を主張すれば、引換給付判決がなされます。
なお、留置権と同時履行の抗弁権についてまとめると、以下の表のようになります。
【留置権と同時履行の抗弁権のまとめ】
権利の性質
留置権は 法定担保物権
同時履行の抗弁権は 双務契約の効力として認められる抗弁権
権利主張できる相手方
留置権は すべての者
同時履行の抗弁権は 契約当事者たる 相手方のみ
目的物の占有を失った場合
留置権は 行使することができない
同時履行の抗弁権は 行使することができる
拒絶できる給付の内容
留置権は 物の引渡しに限られる
同時履行の抗弁権は 物の引渡しに限られない
拒絶できる自己の債務の範囲
留置権は 債務の全額
同時履行の抗弁権は 相手方の不履行の程度に応じて割合的
代担保による消滅請求の可否
留置権 可能
同時履行の抗弁権 不可
訴訟上の効果
留置権・同時履行の抗弁権 共に 引換給付判決がなされる
危険負担
事例
AがBに対して自己所有の建物を売ったが、未だ引渡しがなされないうちに、この建物が大地震により倒壊した。
危険負担とは、双務契約上の債務の一方が債務者の責めに帰することができない事由によって履行できなくなった場合に、他方の債務の履行を拒絶できるか否かという問題のことです。
この事例において、AのBに対する建物引渡し債務は履行できなくなっていますので、BがAに対する代金債務の履行を拒絶できるかどうかが問題となります。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができるとされていますので、Bは、Aに対する代金債務の履行を拒絶できます。
なお、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者を保護する必要はありませんから、債権者は、反対給付の履行を拒むことができません。
権利移転型契約
学習のポイント
権利移転型契約とは、財産権の移転を目的とした契約のことです。
この権利移転型契約には、贈与契約、売買契約、交換契約の3種類があります。
贈与契約
(1)贈与契約とは何か
事例
Aは、Bに対して「自分の所有する時計をプレゼントしたい」と言って申込みをしたところ、Bは「いただきます」と言ってこれを承諾した。
贈与契約とは、当事者の一方(贈与者)がある財産を無償で相手方(受贈者)に与える契約のことです。
要するに、プレゼントをする契約のことです。
(2)書面によらない贈与
贈与契約が書面によらないでなされた場合(これを書面によらない贈与といいます)、各当事者は、その贈与契約を解除することができます。
この趣旨は、贈与者が軽率に贈与することを予防し、かつ、贈与の意思を明確にする点にあります。
重要判例
贈与が書面によってされたといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によっていることを必要としないことはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることも必要としない。
法改正情報
民法改正により、書面によらない贈与の場合、「撤回」ではなく、「解除」とされました。
もっとも、すでに受け取った物を返せと言われたら、受贈者も困ってしまいます。
そこで、履行の終わった部分は、解除することができないとされています)。
ここにいう「履行の終わった部分」とは、以下のようになります。
【履行の終わった部分】
動産
引渡しがあれば「履行の終わった部分」に当たる
不動産
引渡し又は登記があれば「履行の終わった部分」に当たる
重要判例
「引渡し」には、占有改定も含まれる。
(3)贈与者の担保責任
贈与者は、贈与の目的である物・権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定され、原則として担保責任を負わないとされています。
他方で、負担付き贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負うことになります。
(4)特殊の贈与
① 定期贈与
定期の給付を目的とする贈与(定期贈与)は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失います。
なぜなら、定期贈与は贈与者と受贈者の信頼関係を基礎としているからです。
② 負担付き贈与
負担付き贈与とは、贈与に際して受贈者も何らかの給付義務を負担するものです。
この負担付き贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用されます。
したがって、同時履行の抗弁権・危険負担・解除の規定の適用があります。
③ 死因贈与
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与(死因贈与)は、あくまで 贈与契約であって、単独行為である遺言による遺贈とは異なります。
もっとも、実質的には類似した性質を有するので、死因贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定が準用されます。
重要判例
・死因贈与の撤回については、1022条がその方式に関する部分を除いて準用されるため、贈与者は、いつでも、死因贈与を撤回することができる。
・負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付き死因贈与契約に基づき、受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合、特段の事情がない限り、遺言の撤回に関する1022条を準用するのは相当でない。
売買契約
(1)売買契約とは何か
事例
Aは、Bに対して「自分の所有する土地を売りたい」と言って申込みをしたところ、Bは「買います」と言ってこれを承諾した。
売買契約とは、当事者の一方(売主)がある物(財産権)を相手方(買主)に移転し、相手方がこれに対してその代金を支払う契約のことです。
なお、売買契約に関する費用は、公平の観点から、当事者双方が等しい割合で負担します。
(2)手付
① 手付とは何か
手付とは、売買契約の締結の際に当事者の一方から他方に交付される金銭などのことです。
手付には、以下のような種類があります。
【手付の種類】
解約手付
約定解除権の合意という機能を有する手付
証約手付
契約成立の証拠としての手付
違約手付
相手方の債務不履行に際して 受領者により没収される手付
損害賠償額の予定としての手付
手付の没収だけで済ませ 別途 損害賠償を請求することができない
違約罰としての手付
手付の没収以外に 現実に被った損害の賠償請求が可能
重要判例
・売買の手付は、反対の証拠がない限り、557条所定のいわゆる解約手付と認定すべきである。
・損害賠償額の予定としての手付と解約手付を兼ねることもできる
② 解約手付による解除
買主が売主に手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができます。
なお、解約手付による解除権を行使しても、債務不履行による解除の場合とは異なり、損害賠償を請求することはできません。
(3)売主の担保責任
① 売主の担保責任とは何か
売主の担保責任とは、売買契約の目的物が契約の内容に適合せず、このために買主が契約締結の時に予期した結果に反する場合に、売主が負うべき責任のことです。
このように売主の担保責任が認められているのは、売買契約の目的物が契約の内容に適合せず代金と釣り合っていない場合、売主が得をして買主が損をするため、不公平となるからです。
② 他人物売買の効力
他人物売買は、権利者に売買成立当時から他に権利を譲渡する意思がなく、売主がこれを取得して買主に移転することができないような場合でも、有効に成立します。
重要判例
権利を有しない者が、他人の物を自己の権利に属するものとして処分した場合でも、真実の権利者がこれを追認したときは、処分の時に遡って効力を生じる。
③ 要件
買主が売主の担保責任を追及することができるのは、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約内容不適合)です。
契約内容不適合は、隠れたものである必要はありません。(買主の善意無過失は要求されていません)
ただし、買主に帰責事由がある場合、売主の担保責任を追及することができません。
④ 効果
買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます。
参考
買主は、債務不履行を理由とする損害賠償請求や契約の解除をすることもできる。
また、、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます。
【代金減額請求の要件】
原則
相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、代金減額請求ができる。
例外
以下の場合、無催告で代金減額請求ができる
① 履行の追完が不能の場合
② 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した場合
③ 特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成できない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
④ 買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかな場合
⑤ 期間制限
売主の担保責任を主張できる期間は、以下のとおりです。
【売主の担保責任の期間制限】
目的物の種類・品質に関する不適合
買主が不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知する必要がある。
※売主が目的物の引渡し時に不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、通知は不要であり、消滅時効の一般原則に戻る。
目的物の数量や権利移転義務の不適合
消滅時効の一般原則
→ 買主が不適合を知った時から5年 又は 目的物の引渡し時から10年
(4)売買契約の効力
① 契約当事者の義務
売主は、売買契約の目的物(財産権)を買主に移転する義務を負い、買主は、売主に対して代金を支払う義務を負います。
参考
・売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定される
・売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。
なお、目的物から生ずる果実や代金の利息の処理については、以下のようになります。
【果実・代金の利息】
目的物の引渡し前
代金未払い 果実は売主に帰属する
代金支払済 果実は買主に帰属する
目的物の引渡し後
果実は買主に帰属するが、代金支払期限が到来している場合、引渡し日から利息支払義務を負う
② 代金支払拒絶権
売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得できず、又は失うおそれがあるときは、買主は、売主が相当の担保を供した場合を除き、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができます。
また、買い受けた不動産について契約内容に適合しない先取特権・質権・抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求等の手続が終わるまで、その代金の支払いを拒むことができます。
(5)買戻し
買戻しとは、売買契約の際の特約によって、売主が代金及び契約の費用を買主に返還することによって売買契約を解除し、目的物を取り戻すことです。
この買戻しは、借金をする際に債務を弁済すれば買い戻すことができるという特約付で債務者が所有する物を債権者に譲渡するといった形で、担保目的の利用がなされています。
交換契約
事例
AはBに対して「自分の所有する東京の土地をあなたの所有する大阪の土地と交換したい」と言って申込みをしたところ、Bは「わかりました」と言ってこれを承諾した。
交換契約とは、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転する契約のことです。
売買契約が物とお金を交換する契約であるのに対し、交換契約は、物と物を交換する契約であるといえます。
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貸借型契約
学習のポイント
貸借型契約とは、物の貸し借りをする契約のことです。この貸借型契約には、消費貸借契約、使用貸借契約、賃貸借契約の3つがあります。
消費貸借契約
(1)消費貸借契約とは何か
事例
Aは、Bに対して、1ヶ月後に返してもらう約束で100万円を貸すこととし、Bに100万円を渡した。
消費貸借契約とは、当事者の一方(借主)が種類・品質・数量の同じ物をもって返還をすることを約束して相手方(貸主)から金銭その他の物を受け取ることによって成立する契約のことです。
消費貸借契約は、契約当事者の合意のほかに、目的物の引渡しをすることが成立要件とされています。
このような契約を要物契約といいます。
ただし、書面でする消費貸借契約は、契約当事者の合意だけで成立します。
このような契約を諾成契約といいます。
消費貸借契約の目的物は、金銭であることが多いですが、金銭以外の物(例:米やガソリンなど)を目的とすることもできます。
(2)返還時期
① 返還時期を定めた場合
当事者が返還時期を定めた場合、その時期に返還することになります。
② 返還時期を定めなかった場合
当事者が返還時期を定めなかった場合、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができます。
そして、催告してから相当の期間が経過すると、借主は履行遅滞に陥ります。
これに対して、借主は、返還時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還することができます。
過去問チェック
消費貸借については、返還時期の合意がないときには、貸主の請求があれば借主は直ちに返還しなければならない。
誤り。
使用貸借契約
(1)使用貸借契約とは何か
事例
Aは、親戚のBに対して、引越先が見つかったら返してもらう約束で、自分の所有する建物を無償で貸すこととし、Bにこの建物を引き渡した。
使用貸借契約とは、当事者の一方(貸主)がある物を引き渡すことを約束し、相手方(借主)がその受け取った物について無償で使用・収益をして契約が終了したときに返還することを約束することで成立する契約のことです。
法改正情報
民法改正により、使用貸借契約は、要物契約ではなく諾成契約になりました。
(2)使用貸借契約の効力
① 貸主の義務
貸主は借主の使用・収益を受忍する消極的義務を負いますが、賃貸借の場合と異なり、積極的な修繕義務は負いません。
② 借主の義務
借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用・収益をしなければなりません。
また、借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用・収益をさせることはできません。
これらに違反して使用・収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができます。
(3)費用の償還
借主は、借用物の通常の必要費を負担します。
これに対して、通常の必要費以外の費用については、貸主に対して償還請求することができます。
参考
有益費の償還の時期は使用貸借の終了時であり、貸主の請求により裁判所は相当の期限を許与することができる。
(4)使用貸借契約の終了
① 目的物の返還時期
使用貸借契約における目的物の返還時期は、以下のとおりです。
【目的物の返還時期】
当事者が返還時期を定めた場合
その時期に返還する
当事者が返還時期を定めなかった場合
使用目的を定めたとき
〈原則〉
目的に従った使用・収益の終わる時に返還する
〈例外〉
① 使用・収益に必要な期間経過したときは、貸主は契約の解除ができる
② 借主はいつでも契約の解除ができる使用目的を定めなかったとき
使用目的を定めなかったとき
貸主・借主ともにいつでも契約の解除ができる
② 借主の死亡
使用貸借契約は、無償で目的物を貸すものですから、貸主が借主を信頼してなされるものであるといえます。
そこで、使用貸借契約は、借主の死亡によって当然に終了します。
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賃貸借契約
(1)賃貸借契約とは何か
事例
AはBに対して「自分の所有する建物を賃料月額10万円で貸したい」と言って申込みをしたところ、Bは「借ります」と言ってこれを承諾した。
賃貸借契約とは、当事者の一方(賃貸人)がある物の使用・収益を相手方にさせることを約束し、相手方(賃借人)がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約束することによって成立する契約のことです。
(2)敷金
① 敷金とは何か
敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務などを担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭のことです。
参考
賃貸人は、賃借人が賃料債務などを履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができるが、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てるよう請求することはできない。
賃貸人は、
①賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき
②賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、
延滞賃料などの未払債務を差し引いて、敷金を返還しなければなりません。
②敷金返還請求の相手方
賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転した場合、敷金返還債務は譲受人又はその承継人に承継されます。
他方、賃借権が移転した場合、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は、特段の事情のない限り、新賃借人に承継されません。
重要判例
家屋の賃貸借終了後明渡前にその所有権が他に移転された場合、敷金に関する権利義務関係は、旧所有者と新所有者との合意のみによっては、新所有者に承継されない。
(3)契約当事者の義務
①賃貸人の義務
賃貸人は、賃借人に対して目的物を使用・収益させる義務を負います。
また、賃貸人は、賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負います。
なお、賃借人が目的物の必要費や有益費を支出した場合、賃貸人は、これらの費用を償還する義務を負います
参考
賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
【費用償還義務】
〔意味〕
必要費
使用・収益に適する状態に目的物を維持・保存するために必要な費用
有益費
目的物の改良のために支出された費用
〔償還時期〕
必要費
直ちに償還しなければならない
有益費
賃借物の価格の増加が現存する限り、賃貸借の終了の時に、支出した費用又は増価額の償還をしなければならない
必要費の具体例
例えば、屋根からの雨漏りの修繕費や、トイレが故障した場合の修理費など。
有益費の具体例
例えば、借家の前の道路をコンクリートで舗装した場合の費用など。
重要判例
賃借人が賃借建物に付加した増改築部分が賃貸借終了前に滅失した場合、特段の事情のない限り、賃貸人の有益費償還義務は消滅する。
また、賃貸借は有償契約ですから、賃貸人は、売主と同様の担保責任を負います。
したがって、土地又は建物の賃借人は、賃借物に対する権利に基づき自己に対して明渡しを請求することができる第三者からその明渡しを求められた場合には、それ以後、賃料の支払を拒絶することができます。
②賃借人の義務
賃借人は、賃貸人に対して賃料を支払う義務を負います。
賃料とは、目的物の使用・収益に対する対価のことです。
参考
賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。
(4)賃借権の譲渡・転貸
① 賃借権の譲渡・転貸とは何か
事例1
Aは、Bに対して、自己の所有する建物を賃貸した。その後、Bは、Cに対してこの建物の賃借権を譲渡した。
事例2
Aは、Bに対して、自己の所有する建物を賃貸した。その後、Bは、Cに対してこの建物を転貸した。
賃借権の譲渡とは、事例1のように、賃借人Bが第三者Cに賃借権を譲渡し、自らは賃貸借関係から離脱する場合のことです。
これに対して、転貸とは、事例2のように、賃借人Bが目的物を第三者Cに又貸しし、自らも賃貸借関係(AB間)を存続させる場合のことです。
②承諾のない譲渡・転貸
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲渡し、又は転貸することができません。
そして、賃借人がこれに違反して第三者に賃貸物の使用・収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができます。
重要判例
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の使用又は収益をさせた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、賃貸人は、契約を解除することはできない。
③承諾のある譲渡・転貸
賃借権が適法に譲渡されると、旧賃借人は賃貸借関係から離脱します。
他方、賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃借人の債務の範囲を限度として賃貸人に対して直接に義務を負うことになります。
この場合、転借人は、賃料の前払いをもって賃貸人に対抗することができません。
重要判例
・賃貸人がいったん賃借権の譲渡・転貸を承諾した場合、賃借人が第三者との間で賃借権の譲渡・転貸をする前であっても、賃貸人は、これを撤回することができない。
・「賃料の前払い」とは、転貸借契約で定められた弁済期前に賃料を支払うことである。
参考
賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することは妨げられない。
なお、賃貸借の解除の効力については、以下のとおりです。
【賃貸借の解除の効力】
合意解除
賃貸借が合意解除された場合でも、その解除を転借人に対抗することができない。
債務不履行による解除
賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する。
重要判例
適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。
(5)賃借人の第三者に対する関係
① 不動産賃借権の対抗力
事例
Aは、Bに対して、自己の所有する建物を賃貸した。その後、Aは、Cに対してこの建物を売却した。
Bは、賃借権という債権をもっていますが、債権は債務者Aという特定の人に対してしか主張できませんから、Cに対して賃借権を主張することはできません。
そこで、建物の新所有者であるCは、Bに対して物権的請求権を行使し、建物から出ていくよう請求することができます。
もっとも、生活の基盤となる建物の賃貸借において、目的物の譲渡により賃貸借関係が覆されてしまうと、賃借人Bは困ってしまいます。
そこで、不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができます。
したがって、Bは、建物の賃貸借について登記をすれば、Cに対しても賃借権を主張することができ、建物から出ていかなくてもすむようになります。
重要判例
賃借権は債権であるから、賃借人は賃貸人に対してその登記を請求することはできない。
②賃借権の二重設定
賃借権が二重に設定された場合の優劣は、対抗要件の先後で決まります。
③不法占拠者との関係
所有者たる賃貸人は、不法占拠者に対して、所有権に基づく妨害排除請求権を行使することができます。
そこで、賃借人は、この妨害排除請求権を代位行使することができます。
また、賃借人は、賃借権につき対抗要件を備えていれば、直接に賃借権に基づく返還請求をすることもできます。
なお、賃貸借と使用貸借の違いをまとめると、以下のようになります。
【賃貸借と使用貸借のまとめ】
〔契約の性質〕
賃貸借
① 諾成契約(目的物の引渡しがなくても契約が成立)
② 有償契約(賃料の支払義務あり)
使用貸借
① 諾成契約(目的物の引渡しがなくても契約が成立)
② 無償契約(賃料の支払義務なし)
〔対抗力〕
賃貸借 あり
使用貸借 なし
〔費用償還請求権〕
賃貸借
① 必要費は、直ちに償還請求可
② 有益費は、賃貸借終了時に償還請求可
使用貸借
① 通常の必要費は、償還請求不可
② 非常の必要費・有益費は、目的物の返還時に償還請求可
〔借主の死亡〕
賃貸借 契約は終了しない
使用貸借 契約は終了する
役務提供型契約
学習のポイント
役務提供型契約とは、役務(労働力)の提供を目的とする契約のことです。
この役務提供型契約には、雇用契約、請負契約、委任契約、寄託契約の4種類があります。
雇用契約
事例
AはBから「Aの会社で働きたい」と申込みを受けたので、Aは「お願いします」と言ってこれを承諾した。
雇用契約とは、当事者の一方(被用者)が相手方(使用者)に対して労働に従事することを約束し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約束することによって成立する契約のことです。
雇用契約においては、被用者が使用者に従属する点が特徴です。
そして、労働者は、その約束した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができないとされており、雇用契約においては、報酬の後払いが原則とされています。
請負契約
(1)請負契約とは何か
事例
AはBに対して「代金1000万円で自分の所有する土地の上に家を建てることを注文したい」と申込みをしたところ、Bは「請け負います」と言ってこれを承諾した。
請負契約とは、当事者の一方(請負人)が仕事を完成すること(家の建築)を約束し、相手方(注文者)が仕事の結果に対して報酬を与える約束をすることによって成立する契約のことです。
請負契約においては、雇用契約と異なり、請負人は注文者から独立しています。
そして、請負契約の報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならないとされており、請負契約においては、目的物の引渡しと報酬の支払いの同時履行が原則です。
重要判例
・注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができる。
・注文者は、損害賠償請求権と報酬請求権を相殺することもできる。
(2)下請負
下請負とは、請負人が請け負った仕事の全部又は一部をさらに第三者に請け負わせることです。
この下請負は、請負人本人の能力に着目された特別な請負の場合を除き、原則として可能です。
下請負がなされた場合、下請負人は元請負人の履行補助者となりますから、下請負人の故意・過失につき元請負人が責任を負います。
重要判例
下請禁止特約がなされている場合でも下請負が当然に無効となるわけではないが、下請負をすること自体が債務不履行となるから、元請負人は下請負をしたことにより生じたすべての事由について損害賠償責任を負う。
(3)目的物の所有権の帰属
請負契約の目的物の所有権は、以下のように帰属します。
【目的物の所有権の帰属】
注文者が材料の全部又は主要部分を提供
目的物の所有権は原始的に注文者に帰属する
請負人が材料の全部又は主要部分を提供
原則
請負人が所有権を取得し、引渡しによって注文者に移転する
例外
① 特約がある場合には、目的物の所有権は注文者に帰属する
② 注文者が代金の全部又は大部分を支払っている場合には、特約の存在が推認され、目的物の所有権は原始的に注文者に帰属する
重要判例
建物建築工事の注文者と元請負人との間に、請負契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する。
(4)請負契約の終了
① 仕事未完成の間の注文者の解除権
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができます。
なぜなら、無用になった仕事を続けさせて注文者のコストを大きくする必要はないからです。
参考
建物の工事請負契約において、工事全体が未完成の間に 注文者が請負人の債務不履行を理由に契約を解除する場合には、工事内容が可分であり、しかも 当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、既施工部分については仕事の完成とみなされ、契約を解除することができず、未施工部分について 契約の一部解除をすることができるにすぎない。
② 注文者の破産手続開始決定による解除権
注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができます。
ただし、請負人は、仕事を完成した後は契約の解除をすることができません。
委任契約
(1)委任契約とは何か
事例
交通事故を起こしたAは弁護士Bに対して「被害者であるCと示談をするようお願いしたい」と申込みをしたところ、Bは「引き受けました」と言ってこれを承諾した。
委任契約とは、当事者の一方(委任者)が法律行為(示談)をすることを相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約のことです。
委任契約においても、請負契約と同様、受任者は委任者から独立しています。
委任契約の場合、雇用契約や請負契約の場合と異なり、特約がなければ報酬を請求することはできません。
そして、報酬についての特約がある場合でも、委任事務を履行した後でなければ、報酬を請求することができません。
参考
委任が委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行ができなくなったとき、または履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
(2)受任者の義務
①善管注意義務
受任者は、報酬についての特約があるかどうかにかかわらず、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負います。
引っかけ注意!
委任契約は委任者・受任者の間の信頼関係を基礎とするため、注意義務の程度は、たとえ無償の場合でも軽減されません。
なお、各場面における注意義務についてまとめると、以下の表のようになります。
【注意義務のまとめ】
〔財産法〕
善管注意義務を負う者
① 留置権者
② 質権者
③ 特定物引渡債権の債務者
④ 受任者
⑤ 事務管理者 ※緊急事務管理を除く
注意義務が軽減されている者
① 無報酬の受寄者
〔家族法〕
善管注意義務を負う者
① 後見人
② 後見監督人
③ 遺言執行者
注意義務が軽減されている者
① 親権者
② 熟慮期間中の相続人
③ 限定承認者
④ 相続放棄者
② 付随的義務
受任者がなすべき事柄の内容は契約ごとに多様ですが、民法では、委任事務の処理に際して通常なすことを要する事柄についての規定があります。
これを付随的義務といい、以下のようなものが挙げられます。
【受任者の付随的義務】
報告義務
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない
受取物・果実の引渡義務
受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物(果実も同様)を委任者に引き渡さなければならない
取得権利の移転義務
受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない
金銭消費の責任
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならず、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う
③ 復委任の可否
復委任とは、第三者に自己の代わりに事務を処理させることです。
委任は信頼関係を基礎としていますから、受任者は、委任者の許諾を得たとき又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができません。
(3)委任者の義務
委任者は、受任者に損失を与えないために、以下のような義務を負っています。
【委任者の義務】
費用前払義務
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない
費用償還義務
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる
債務の代弁済・担保提供義務
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。
その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる
損害賠償義務
受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる
(4)委任の終了
① 任意解除権
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができます。
もっとも、当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときや、委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときは、その当事者の一方は、やむを得ない事由があったときを除き、相手方の損害を賠償しなければなりません。
② 死亡・破産・後見開始
委任は、以下の事由によって終了します
【委任の終了原因】
死亡
委任者も受任者も 終了する
破産手続開始の決定
委任者も受任者も 終了する
後見開始の審判
委任者は 終了しない、受任者は 終了する
受験テクニック
委任者が後見開始の審判を受けた場合、自分で事務処理ができず委任の必要性が増すことから、委任は終了しないと覚えておきましょう。
寄託契約
(1)寄託契約とは何か
事例
AはBに対して「自分の所有する時計を保管してほしい」と申込みをしたところ、Bは「わかりました」と言ってこれを承諾したので、AはBに対して時計を引き渡した。
寄託契約とは、当事者の一方(寄託者)がある物(時計)を保管することを相手方(受託者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約のことです。
寄託契約の場合、委任契約の場合と同じく、特約がなければ報酬を請求することはできません。
法改正情報
民法改正により、寄託契約は、要物契約ではなく諾成契約になりました。
(2)受寄者の注意義務
無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管すれば足りますが、報酬についての特約がある場合には、善良な管理者の注意をもって寄託物を保管する義務を負います。
【委任契約と寄託契約における注意義務】
報酬についての特約ありの場合
委任契約・寄託契約 共に 善良な管理者の注意
報酬についての特約なしの場合
委任契約は 善良な管理者の注意
委任契約は 自己の財産に対するのと同一の注意でよい
過去問チェック
寄託が無償で行われた場合、受寄者は他人の物を管理するにあたり、善良なる管理者の注意をもって寄託物を保管しなければならない。
誤り。
(3)委任の規定の準用
寄託については、委任の規定が準用されています。
【委任の規定の準用】
受寄者の義務
① 受領物・果実の引渡義務
② 取得権利の移転義務
③ 金銭消費の責任
寄託者の義務
① 特約ある場合の報酬支払義務
② 費用前払義務
③ 費用償還義務
④ 債務の代弁済・担保提供義務
(4)寄託物の返還時期
寄託物の返還時期については、以下の表のとおりです。
【寄託物の返還時期】
寄託者は、返還時期を定めた場合も定めなかった場合も いつでも返還請求できる
受寄者は、
返還時期を定めた場合は、やむを得ない事由がある場合を除き、返還時期に返還する
定めなかった場合は、いつでも返還請求できる
契約以外の債権発生原因
学習のポイント
契約以外の債権発生原因には、事務管理、不当利得、不法行為の3つがあります。
それぞれの要件が重要なので、要件については重点的に学習しましょう。
事務管理
(1)事務管理とは何か
事例
Aの家の塀が台風で倒れてしまったため、Bは、Aに頼まれてはいないものの、その塀を修理した。
事務管理とは、義務がないにもかかわらず他人のために事務を管理することです。
そして、管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます。
この事例では、BがAに頼まれていないにもかかわらず、Aの家の塀を修理していますから、Bの行為は事務管理に当たります。
したがって、Bは、Aに対して、塀の修理にかかった費用の償還を請求することができます。このように、事務管理も、契約と同様に債権発生原因となります。
この事務管理制度の趣旨は、社会生活を営む上では相互に助け合うことが要請されるため、他人の生活への干渉を適法と認める点にあります。
(2)要件
①法律上の義務の不存在
契約があれば事務の管理は契約上の債務となりますし、親権のような法律上の地位があれば法律の規定に基づいて他人の事務を管理する義務が生じますから、事務管理にはなりません。
②他人のためにする意思
事務管理が成立するためには、他人のためにする意思が必要です。この「他人のためにする意思」は、自己のためにする意思が併存していても認められます。
具体例をイメージ
例えば、隣家の壁を修理して自宅に倒れこむのを防止する場合などである。
③他人の事務の管理
事務管理の対象となる事務は、法律行為(例:診療契約の締結)でも事実行為(例:隣家の犬にえさをやる)でもかまいません。
④本人の意思及び利益への適合
管理者は、事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、事務管理をしなければなりません。
また、管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければなりません。
(3)効果
①管理者の義務
管理者は、本人の身体・名誉・財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負いません。
これを緊急事務管理といいます。
また、管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければなりません。
ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、管理を継続してはなりません
重要判例
事務管理者が本人の名でした法律行為の効果は、当然に本人に及ぶものではない。
参考
698条の反対解釈から、急迫の危害がなければ、委任の場合と同様、善管注意義務を負うと考えられている。
②本人の義務
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます。
参考
本人は、管理者に対する報酬支払義務を負わない。
また、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができます。
しかし、管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、償還請求できる範囲は本人が現に利益を受けている限度に限定されます。
なお、委任と事務管理の異同についてまとめると、以下の表のようになります。
■
【委任と事務管理のまとめ】
〔権利〕
報酬請求権
委任は特約があれば請求可能、事務管理は無し
費用前払請求権
委任は有り、事務管理は無し
費用償還請求権
委任は有り、事務管理は 有益な費用のみ 有り
代弁済請求権
委任は有り、事務管理は 有益な債務のみ 有り
損害賠償請求権
委任は有り、事務管理は無し
〔義務〕
善管注意義務
委任は有り、緊急事務管理の場合は注意義務なし
報告義務・受領物引渡義務・金銭消費の責任委任も事務管理も有り
不当利得
(1)不当利得とは何か
事例
Aは、自分の所有する時計をBに対して売却し、この時計を引き渡した。
その後、Aは、時計の売買契約を取り消した。
不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼすことです。
そして、不当利得を受けている者は、これを返還する義務を負います。
この事例では、AB間の時計の売買契約が取り消された以上、Bが時計を所持していることについて法律上の原因はありませんから、Bが時計を所持していることは不当利得に当たります。
したがって、Aは、Bに対して、時計の返還を請求することができます。
このように、不当利得も、契約と同様に債権発生原因となります。
この不当利得制度の趣旨は、形式的には正当とされる財産的価値の移動が実質的には正当とされない場合に、公平の理念に従ってこれを調整する点にあります。
(2)要件
不当利得の成立要件は、以下の4つです。
【不当利得の成立要件】
1 受益者が他人の財産又は労務によって利益を受けたこと
2 他人に損失を与えたこと
3 利益と損失との間に因果関係があること
4 法律上の原因がないこと
重要判例
・建物賃借人から請け負って修繕工事をした者が、賃借人の無資力を理由に建物所有者に対して修繕代金相当額を不当利得として返還請求できるのは、建物所有者が対価関係なしに利益を受けた場合に限られる。
重要判例
・金銭消費貸借契約の借主は、特段の事情のない限り、貸主が第三者に対して貸付金を給付したことによりその価額に相当する利益を受けたものとみるべきであるが、借主と第三者の間に事前に何ら法律上・事実上の関係のない場合は、特段の事情があるといえるから、借主は利益を受けたものとはされない。
(3)効果
善意の受益者は、利益の存する限度において、これを返還する義務を負います。
これに対して、悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならず、なお損害があるときは、その賠償の責任を負います。
(4)不当利得の特則
法政策上の判断により、本来ならば成立するはずの不当利得返還請求権が成立しないものとされる場合があります。
これらを不当利得の特則といいます。
① 非債弁済
債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができません。
これを非債弁済といいます。
重要判例
・知らないことにつき過失があったとしても、不当利得返還請求をすることができる。
・債務が存在しないことを知っていたにもかかわらず 強制執行を避けるため やむを得ずに弁済をした者は、給付したものの返還を請求することができる。
②期限前の弁済
債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができません。
なぜなら、弁済受領者は期限の利益の放棄がなされたと思って受領した物を処分してしまうのが通常であり、これを返還させるのは酷だからです。
ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければなりません。
具体例をイメージ
例えば、債権者が得た利息などである。
③他人の債務の弁済
債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合、弁済者は給付した物の返還を請求することができるのが原則です。
もっとも、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができません。
参考
弁済をした者から債務者に対する求償権の行使をすることは妨げられない。
④不法原因給付
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができません。
これを不法原因給付といいます。
この趣旨は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、
その行為の復旧を訴求することを許さない点にあります。ここにいう「給付」は、受益者に終局的な利益を与えるものでなければならないとされています。
なぜなら、不法原因給付をできるだけ思いとどまらせることにより、不法原因給付を抑止すべきだからです。
具体例をイメージ
例えば、愛人関係にある女性に対して宝石を贈与して引き渡した場合、その返還を請求することはできない。
重要判例
不法原因給付の返還の特約は、有効である。
【「給付」の意味】
不動産の引渡し
未登記建物
引渡しが「給付」にあたる
既登記建物
所有権移転登記が「給付」にあたる
抵当権設定登記 「給付」にあたらない
なお、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、給付したものの返還を請求することができます。
重要判例
・建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、当該建物の所有権は、受贈者に帰属する。
・消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があったとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比してきわめて微弱なものにすぎない場合には、貸主は貸金の返還を請求することができる。
不法行為
(1)不法行為とは何か
事例
Aは、自家用車を運転中、わき見運転をしていたために通行人Bを轢いてしまった。
これにより、Bは全治1ヶ月の傷害を負い、入院を余儀なくされた。
不法行為とは、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、これによって損害を生じさせることです。
そして、不法行為を行った者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。
この事例では、Aがわき見運転という過失によってBに全治1ヶ月の傷害を負わせ、入院費用という損害を生じさせていますから、Aの行為は不法行為に当たります。
したがって、Bは、Aに対して、損害賠償請求をすることができます。
このように、不法行為も、契約と同様に債権発生原因となります。
この不法行為制度の趣旨は、被害者の救済、損害の公平な分担、将来の不法行為の抑止の3点にあります。
なお、不法行為は、一般不法行為と特殊不法行為に分類されます。
【不法行為】
一般不法行為
故意又は過失に基づく原則的な不法行為責任
特殊不法行為
一般不法行為の原則を、過失の立証責任を転換したり、無過失責任を課すなどの方法で修正するもの
用語
立証責任:訴訟において一定の事実を証明しないと不利な判決を受けること。
(2)一般不法行為
一般不法行為の要件は、以下の6つです。
① 故意又は過失があること
故意又は過失は被害者の側で立証しなければなりません。
なぜなら、契約関係のないまったくの他人に損害賠償債務を負わせることになるからです。
② 責任能力があること
責任能力とは、自分の行為が違法なものとして非難されるものであることを認識できる能力のことです。
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負いません。
また、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときを除き、その賠償の責任を負いません。
③ 権利又は法律上保護される利益を侵害すること
平成16年の民法の改正によって、被侵害利益として権利の他に法律上保護される利益が併記されることになりました。
④ 損害が発生すること
損害とは、不法行為があった場合となかった場合との利益状態の差を金銭で評価したもののことです(差額説)。
⑤ 行為と損害との間に因果関係があること
不法行為の要件として、行為と損害との間に因果関係があることが必要とされています。
これは、損害に対する責任を課す以上、当然の要件とされています。
⑥ 違法性阻却事由がないこと
違法性阻却事由のうち明文で認められたものとして、正当防衛と緊急避難があります。
用語
違法性阻却事由:
通常であれば不法行為を構成するような行為であっても、不法行為が成立しないこととなる特別の事情のこと。
【正当防衛と緊急避難】
〔要件〕
正当防衛
①他人の不法行為に対し
②自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため
③やむを得ず不法行為者又は第三者に対して加害行為をしたこと
緊急避難
①他人の物から生じた急迫の危難に対し
②これを避けるため
③その物を損傷したこと
〔効果〕
正当防衛・緊急避難 共に
行為の違法性が阻却され、損害賠償責任を負わない
正当防衛のみ、第三者から不法行為者に対して損害賠償請求をすることができる
(3)特殊不法行為
① 監督義務者の責任
事例
Aの息子であるB(10歳)は、道路で石を投げて遊んでいたところ、この石が通行人Cに当たってしまった。
これにより、Cは全治1ヶ月の傷害を負い、入院を余儀なくされた。
責任無能力者Bがその責任を負わない場合、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う監督義務者Aが、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。
したがって、上の事例では、Cは、監督義務者であるAに対して損害賠償請求をすることができます。
重要判例
未成年者が責任能力を有する場合でも、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは、監督義務者につき709条に基づく不法行為が成立する。
しかし、親権者の未成年者に対して及ぼしうる影響力が限定的で、かつ親権者において未成年者が不法行為をなすことを予測し得る事情がないときには、親権者は、被害者に対して不法行為責任を負わない。
もっとも、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、免責されます。
② 使用者責任
事例
Aが経営する飲食店の店員Bは、出前のため会社の自動車を運転中、わき見運転をしていたために通行人Cを轢いてしまった。これにより、Cは全治1ヶ月の傷害を負い、入院を余儀なくされた。
ある事業のために他人を使用する者Aは、被用者Bがその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。
これを使用者責任といいます。
この趣旨は、使用者が被用者を使用して自己の活動範囲を広げるという利益を得ている以上、被用者が生じさせた損害についても責任を負うべきという点にあります。
したがって、この事例では、Cは、使用者であるAに対して損害賠償請求をすることができます。
重要判例
・判例は、暴力団のトップである組長と下部組織の構成員( チンピラ)との間に、暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について、使用関係を認めている。
・「事業の執行について」には、被用者の職務執行そのものには属しないものの、その行為の外形から観察して、被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合も含まれる。
もっとも、その行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものではなく、かつ、その相手方がこの事情を知り又は重大な過失によってこれを知らないときは、その相手方は、使用者責任を追及することができない。
・飲食店の店員が自動車で出前に行く途中で他の自動車の運転手と口論となり、同人に暴力
行為を働いてしまった場合、「事業の執行について」加えた損害に該当し、店員の使用者は、使用者責任を負う。
もっとも、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、免責されます。
なお、使用者責任が成立すると、使用者は、被用者の加害行為から生じた損害を賠償しなければなりません。
そして、使用者と被用者は、いずれもが被害者に対して全額の賠償義務を負いますが、いずれかが賠償すれば免責されます。このような債務を不真正連帯債務といいます。
使用者又は監督者は、被用者に対して求償することができます。
重要判例
使用者の被用者に対する求償は、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上 相当と認められる限度に制限される。
参考
被用者が使用者に対して求償することは認められていない。
③ 注文者の責任
注文者は、注文又は指図について過失があったときを除き、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負いません。
なぜなら、請負契約は通常の使用関係より独立性が強いからです。
④ 工作物責任
事例
AはBに対して建物を賃貸し、Bがこの建物に住んでいたところ、この建物の塀が倒れて通行人Cが下敷きになってしまった。
これにより、Cは全治1ヶ月の傷害を負い、入院を余儀なくされた。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者Bは、被害者に対してその損害を賠償する責任を負うとされています。
これを工作物責任といいます。
参考
大地震で塀が倒壊した場合など、瑕疵の有無にかかわらず 同じような被害が生じたといえるような場合は、因果関係はないと評価され、工作物責任は生じない。
したがって、上の事例では、Cは、建物の占有者であるBに対して損害賠償請求をすることができます。
もっとも、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、免責されます。
そして、占有者が免責された場合、所有者が二次的責任を負います。
この場合、所有者は、占有者と異なり、損害の発生を防止するのに必要な注意をしても免責が認められません。
したがって、上の事例では、Cは、建物の所有者であるAに対して損害賠償請求をすることができます。
なお、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができます。
⑤ 動物占有者の責任
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います。
もっとも、動物の種類・性質に従い 相当の注意をもってその管理をしたときは、免責されます。
⑥ 共同不法行為
事例
Aは、自家用車を運転中に、Bが運転する自動車と衝突事故を起こし、通行人Cがこの事故に巻き込まれてしまった。
これにより、Cは全治1ヶ月の傷害を負い、入院を余儀なくされた。
なお、この衝突事故は、Aの前方不注意とBの居眠り運転が競合して生じたものであった。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うものとされています。
これを共同不法行為といいます。
この趣旨は、各自に連帯責任(全額の賠償義務)を負わせることで、被害者の救済を図る点にあります。
重要判例
共同不法行為者の1人に対する免除は、他の共同不法行為者に対してその効力を生じないのが原則であるが、被害者が他の共同不法行為者の債務をも免除する意思を有していると認められるときは、他の共同不法行為者に対しても免除の効力が及ぶ。
共同不法行為となるのは、以下の3つの場合です。
【共同不法行為】
1 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたとき
2 共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないとき
3 教唆者・幇助者がいるとき
重要判例
「共同の不法行為」といえるためには、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えることが必要である。
共同不法行為者間には、過失の割合(負担部分)に応じた求償が認められます。
なぜなら、求償を認めないと、現実に賠償した共同不法行為者が全額負担することになり誰も進んで賠償しなくなってしまい、被害者の保護に欠けるからです。
(4)不法行為の効果
① 金銭賠償の原則
不法行為が成立すると、被害者は、加害者に対して損害賠償請求をすることができます。
この損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めます。
もっとも、他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分をすることができます。
② 損害賠償請求権者
まず、被害者本人は、損害賠償を請求することができます。
そして、胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされます。
次に、被害者本人が死亡した場合、被害者の父母・配偶者及び子は、損害賠償(慰謝料)を請求することができます。
また、損害賠償請求権や慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、当然に相続の対象となります。
重要判例
・不法行為により身体に障害を受けた者の母が、そのために被害者の生命侵害の場合にも匹敵する精神上の苦痛を受けたときは、709条・710条に基づいて、自己の権利として慰謝料を請求することができる。
・不法行為による生命侵害があった場合、711条所定以外の者であっても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視できる身分関係が存在し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、加害者に対し慰謝料を請求することができる。
③ 損益相殺
損益相殺とは、不法行為と同一の原因によって被害者が利益を受けている場合に、これを加害者の賠償すべき損害額から差し引くことです。
この損益相殺は、損害の公平な分担という不法行為制度の趣旨から認められています。
【損益相殺】
認められるもの
① 死亡者の生活費
② 給付されることが確定した遺族年金
認められないもの
① 死亡者に支払われた生命保険金
② 死亡した幼児の養育費
④ 過失相殺
被害者にも過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます。
これを過失相殺といいます。
この趣旨は、不法行為により生じた損害を加害者と被害者の間で公平に分担する点にあります。
そして、過失相殺の対象となる被害者の過失は、被害者本人と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失(被害者側の過失)を含みます。
重要判例
過失相殺するには、被害者が、事理弁識能力をそなえていれば足り、責任能力をそなえていることを要しない。
【被害者側の過失】
当たるもの
① 夫の運転する被害自動車に 妻が同乗していた場合の夫の過失
(夫婦の婚姻関係が 既に破綻に瀕している場合を除く)
② 内縁の夫の運転する被害自動車に 内縁の妻が同乗していた場合の内縁の夫の過失
③ 交代しながら二人乗りでバイクの暴走行為をしていた者の過失
当たらないもの
被害を受けた幼児を引率していた 保育園の保育士の監護上の過失
また、損害の発生や拡大に寄与した被害者の精神的・肉体的要因(被害者の素因)についても、722条2項の規定が類推適用されることがあります。
【被害者の素因】
過失相殺の対象となるもの
① 被害者の心因的要因が寄与している場合
② 被害者の身体的要因が疾患に当たる場合
過失相殺の対象とならないもの
被害者が平均的な体格や通常の体質と異なる身体的特徴を有しているが、それが疾患に当たらない場合
⑤ 損害賠償請求権の期間制限
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときや、不法行為の時から20年間行使しないときは、時効によて消滅します。
この趣旨は、長期間経過すると不法行為の立証が難しくなるため、早期に決着を付けさせる点にあります。
重要判例
「被害者が損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時のことをいう。
法改正情報
民法改正により、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間に延長されました。
【生命・身体侵害の損害賠償請求権の消滅時効】
〔通常の損害賠償請求権〕
債務不履行
主観的期間 5年・客観的期間 10年
不法行為
主観的期間 3年・客観的期間 20年
〔生命・身体侵害の損害賠償請求権〕
債務不履行
主観的期間 5年・客観的期間 20年
不法行為
主観的期間 5年・客観的期間 20年
⑥ 債務不履行責任との違い
債務不履行による損害賠償責任と不法行為による損害賠償責任の違いは、以下の表のとおりです。
【債務不履行責任と不法行為責任のまとめ】
〔立証責任〕
債務不履行責任は、債務者が自己の帰責事由の不存在について立証責任を負う
不法行為責任は、被害者(債権者)が加害者(債務者)の故意・過失の存在について立証責任を負う
〔消滅時効〕
債務不履行責任は、本来の債務の履行を請求できる時から10年
不法行為責任
① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年
② 不法行為の時から20年
〔履行遅滞〕
債務不履行責任は、債権者から履行の請求を受けた時
不法行為責任は、不法行為の時
〔過失相殺〕
債務不履行責任
損害賠償責任の免除又は損害賠償額の減額を必ずしなければならない
不法行為責任
損害賠償額の減額のみを任意にすることができる