416ページ 物権
物権総論
物権とは何か
一物一権主義
物権とは、土地や建物などの一定の物を支配して利益を受ける権利のことです。
この物権は、同一の物について同一内容の物権は複数成立しないという排他性を有しています。
これを一物一権主義といいます。
物権法定主義
物権は排他性を有するとても強い権利ですので、国民が勝手に物権を作ってしまうと混乱が生じます。
そこで、物権は、法律に定めるものの他は創設できないとされています。
これを物権法定主義といいます。
物権の種類
物権は、現実に物を支配しているという事実状態(これを占有といいます)に基づく権利である占有権と、占有を適法なものとする権利である本権に大きく分けることができます。
次に、本権は、自分のもっている物を自由に使用・収益・処分する権利である所有権と、使用・収益・処分のうちのいずれかが制限されている制限物権に分けることができます。
さらに、制限物権は、他人のもっている物を使用・収益する権利(処分権限が制限されている)である 用益物権と、他人のもっている物を自分の債権の担保のために処分する権利(使用・収益権限が制限されている)である 担保物権に分けることができます。
物権的請求権
物権的請求権とは、物権の円満な支配状態が妨害され又は妨害されるおそれがある場合に、その物権をもっている人が妨害の排除又は予防のために、一定の行為をすること又はしないことを請求しうる権利のことです。
物権的請求権には、
返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権の3種類があります。
返還請求権
目的物の占有を喪失した場合に、法律上の正当な根拠なくして物を占有する人に対して、その返還を請求する権利
例えば、Aの宝石をBが無断で持ち去った場合に、AがBに対して宝石の返還を請求する権利など。
妨害排除請求権
物権内容の実現に妨害がある場合に、妨害をしている人に対して、その妨害の排除を請求する権利
例えば、Aの土地にBがゴミを大量に不法投棄した場合に、AがBに対して土地からゴミをどかすよう請求する権利など。
妨害予防請求権
物権に対する妨害が将来発生する危険がある場合に、それを防止しうる地位にある人に対して、その防止を請求する権利
例えば、Aの土地にBの土地の大木が倒れそうになっている場合に、AがBに対して大木が倒れてこないような措置をとるよう請求する権利など。
物権変動
物権変動とは何か
物権変動とは、物権の発生・変更・消滅のことです。
この物権変動は、契約による場合のほか、取得時効や相続など契約によらない場合にも生じます。
物権変動の成立要件
第176条(物権の設定及び移転)
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
物権変動は、当事者の意思表示のみによって効力が生じ、その成立要件として他の形式(登記・引渡しなど)は要求されません。
これを意思主義といいます。
したがって、契約による物権変動の場合、特約がない限り、契約が成立した時点で物権変動が生じます。
不動産物権変動 177条の「第三者」
第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
対抗要件とは何か
事例
Aは、自己の所有する土地をBに対して売却したが、所有権移転登記はなされなかった。
その後、Aは、この土地をCにも売却して、所有権移転登記をなした。
この事例では、土地が二重に売却されていますが、一物一権主義の原則により同一の物について同一内容の物権は複数成立しませんから、土地の所有者はどちらか1人になります。
そこで、この土地の所有者はBとCのどちらになるかが問題となります。
民法は、不動産に関する物権の得喪及び変更は、その登記をしなければ、第三者に対抗することができないとし、土地を買った者は登記をしなければ、第三者に対して自分が土地の所有者であることを主張することができないとしています。
つまり、不動産物権変動の対抗要件は登記です。
したがって、登記を備えていないBは、Cに対して土地を取得したことを対抗できず、その結果、Cがこの土地の所有者となります。
「第三者」とは何か
① 客観的要件
対抗要件を備えなければ物権変動があったことを主張できない「第三者」とは、当事者もしくはその包括承継人以外の者であって、不動産に関する物権の得喪・変更の登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者を指します
177条の「第三者」
当たる者
① 二重譲渡の譲受人
② 対抗要件を具備した賃借人
③ 差押債権者
参考
差押えをしていない一般債権者は、177条の「第三者」に当たらない。
当たらない者
① 不法占有者
② 無権利者
③ 転々譲渡の後主・前主の関係にある者
④ 譲渡人の相続人
重要判例
生前の被相続人からの譲受人と相続人からの譲受人は、二重譲渡の譲受人と同様に、「第三者」に当たる。
主観的要件
「第三者」に当たるかどうかの判断に際し、その者が善意であるか悪意であるかは関係ありません。
つまり、上の事例でBがAから土地を買ったことをCが知っていたとしても、Bは、登記をしなければCに対して自分が土地の持ち主であることを主張できないのです。
もっとも、信義に従い誠実な行為をしていない者(これを背信的悪意者といいます)は、「第三者」に当たらず、対抗要件を備えなくても物権変動があったことを対抗することができます。
背信的悪意者に当たるとされるのは、以下のような者です。
1 詐欺又は強迫によって登記申請を妨害した者
2 復讐目的で買い受けた者
3 登記のない第一買主に高値で売り付けようとして買い受けた者
4 第一譲渡の代理人であった者
重要判例
背信的悪意者からの転得者は、譲受人に対する関係で転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、「第三者」に当たる。
不動産物権変動 登記を対抗要件とする物権変動
(1)取消しと登記
① 取消前の第三者
事例
Aが自己所有の土地をBに売却し、所有権移転登記をした。
その後、Bがこの土地をCに転売した後に、AはAB間の売買契約を取り消した。
制限行為能力・強迫を理由として取り消した者は、取消前の第三者が善意無過失であったとしても、登記なくして対抗することができます。
これに対して、詐欺を理由として取り消した者は、善意無過失の第三者に対して対抗することができません。
したがって、上の事例では、登記の有無で土地の所有権が決定されるわけではありません。
過去問チェック
AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売したところ、AがBの詐欺を理由に売買契約を取り消した場合に、Cは善意無過失であれば登記を備えなくても保護される。
正しい
② 取消後の第三者
事例
Aは、Bの詐欺により自己所有の土地をBに売却し、所有権移転登記をした。その後、Aは騙されたことに気付き、AB間の売買契約を取り消したが、まだ登記がBのところにある間に、Bはこの土地をCに転売した。
取消権者は、登記をしなければ、第三者に対して所有権の復帰を対抗することができません。
したがって、上の事例では、Aは、Cに対して土地の返還請求をすることができません。
なぜなら、取消の時点でBからAの所有権の復帰があったかのように扱うことができ、Bを起点とするACへの二重譲渡があったのと同視できるため、対抗問題となるからです。
過去問チェック
AからBに不動産の売却が行われた後に、AがBの詐欺を理由に売買契約を取り消したにもかかわらず、Bがこの不動産をCに転売してしまった場合に、Cは善意無過失であっても登記を備えなければ保護されない。
正しい
(2)解除と登記
① 解除前の第三者
事例
Aが自己所有の土地をBに売却し、BがCにこの土地を転売した後、Aは、Bが土地の代金を支払わないため、Bとの間の土地の売買契約を解除した。
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務(これを原状回復義務といいます)を負いますから、Bは、Aに対して土地を返還する義務を負います。
もっとも、原状回復義務を理由として第三者の権利を害することはできませんが、第三者が保護を受けるためには、その権利につき対抗要件を備えていることを要します。
したがって、第三者Cは、登記を備えている場合に限り保護されることになります。
参考
債務不履行に基づく解除であっても、合意解除であっても、同様の結論となる。
解除後の第三者
事例
Aは、自己所有の土地をBに売却したが、Bが土地の代金を支払わないため、Bとの間の土地の売買契約を解除した。
その後、Bは、Cにこの土地を転売した。
不動産の売買契約が解除され、その所有権が売主Aに復帰した場合、売主はその旨の登記を経由しなければ、契約解除後に買主から不動産を取得した第三者Cに対し、所有権の復帰を対抗できません。
なぜなら、解除の時点でBからAの所有権の復帰があったかのように扱うことができ、Bを起点とするACへの二重譲渡と同視できるため、対抗問題となるからです。
過去問チェック
AからBに不動産の売却が行われたが、Bに代金不払いが生じたため、Aは、Bに対し相当の期間を定めて履行を催告したうえで、その売買契約を解除した場合に、Bから解除後にその不動産を買い受けたCは、善意であっても登記を備えなければ保護されない。
正しい
(3)取得時効と登記
① 時効完成時の所有者
事例
Aは、Bの所有していた土地の所有権を時効により取得した。
不動産を時効により取得した占有者Aは、元の所有者Bに対して、登記がなくても時効取得をもって対抗することができます。
なぜなら、時効取得者Aが 元の所有者Bから 不動産を譲り受けたのと同視できるからです。
② 時効完成前の第三者
事例
BがCに対して自己所有の土地を売却した後、Aがこの土地の所有権を時効により取得した。
不動産を時効により取得した占有者Aは、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者Cに対して、登記がなくても時効取得をもって対抗することができます。
なぜなら、時効取得者Aが時効完成前の第三者Cから不動産を譲り受けたのと同視できるからです。
過去問チェック
不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。
誤り
③ 時効完成後の第三者
事例
AがBの所有していた土地の所有権を時効により取得した後、Bがこの土地をCに売却した。
不動産を時効により取得した占有者Aは、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者Cに対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができません。
なぜなら、元の所有者Bを起点とする時効取得者Aと時効完成後の第三者Cへの二重譲渡類似の関係になり、対抗関係となるからです。
重要判例
・不動産の取得時効の起算点は占有開始時であり、占有者が、その時効が完成した後に 当該不動産を譲り受けた者に対して時効を主張するにあたり、起算点を自由に選択して取得時効を援用することはできない。
・不動産の取得時効完成後に 第三者が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記をした場合において、時効取得者が多年にわたり 当該不動産を占有している事実を認識しており、時効取得者の登記の欠缺を主張することが信義則に反すると認められる事情が存在するときは、当該第三者は背信的悪意者に当たり、時効取得者は登記がなくても 時効取得をもって対抗できる。
・占有者が第三者の登記後に なお 引き続き時効取得に必要な期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記がなくても時効取得をもって対抗できる。
・不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。
(4)相続と登記
① 共同相続と登記
事例
Aが死亡しBC両名が2分の1ずつ共同相続した土地につき、Cが勝手に単独所有権取得の登記をした後、この不動産をDに譲渡し、登記も移転した。
相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした相続人Cから単独所有権移転の登記を受けた第三者Dに対し、他の相続人Bは、自己の持分を登記なくして対抗することができます。
なぜなら、CがBの持分を自己名義に登記して譲渡しても、Cが無権利者である以上Dはこれを取得することができず、Dもまた無権利者となるからです。
重要判例
遺贈による不動産の取得については177条の適用があり、受遺者は、その旨の登記を経なければ、相続人の債権者に対抗することができない。
② 遺産分割と登記
事例
Aが死亡しBC両名が2分の1ずつ共同相続した土地につき、BC間の遺産分割協議によりBがこの土地の単独所有権を取得することとされた後、Cが自己の法定相続分に応じた持分をDに譲渡した。
遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人Bは、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者Dに対し、自己の権利の取得を対抗することができません。
なぜなら、遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものではありますが、第三者に対する関係においては、相続により いったん取得した権利につき 分割時に新たな変更を生ずるのと 実質上異ならず、Cを起点としたBDへの二重譲渡類似の関係となるからです。
③ 相続放棄と登記
事例
Aが死亡しBC両名が2分の1ずつ共同相続するはずであったが、Cは、相続を放棄した後、自己の法定相続分に応じた持分をDに譲渡した。
相続の放棄の効力は絶対的で、何人に対しても、登記なくしてその効力を生じますから、Bは、登記なくして 土地の単独所有権の取得をDに対抗することができます。
相続放棄が遺産分割と異なり 絶対的な効力を有するのは、相続開始後 短期間にのみ可能であり、第三者が出現する余地が乏しいからです。
動産物権変動 対抗要件
動産物権変動の場合、対抗要件となるのは引渡しです。
なぜなら、動産は不動産と異なり取引が頻繁に行われるため、登記のような方法をとることは技術的に困難だからです。
なお、引渡しには、
現実の引渡し・簡易の引渡し・占有改定・指図による占有移転の4種類があります。
重要判例
受寄者は、いつでも寄託者の返還請求に応じなければならず、引渡しの欠缺を主張する正当な利益がないので、178条の「第三者」に当たらない。
引渡しの態様
現実の引渡し
・現実になされる引渡し
・売主Aが買主Bに対して自己の所持する目的物を譲渡する場合
簡易の引渡し
・譲受人が既に目的物を所持している場合に、占有権移転の合意のみによってなされる引渡し
・賃借人Aが賃貸人Bから目的物の譲渡を受け、引き続きAが目的物の占有を継続する場合
占有改定
・譲渡人が目的物の所持を継続する場合に、譲受人が譲渡人を介して代理占有する旨の合意によって占有権を移転する方法
・売主Aが買主Bに対して自己の所持する目的物を譲渡し、これをすぐに借りて引き続きAが目的物の占有を継続する場合
指図による占有移転
・間接占有者が第三者との合意及び直接占有者への指図によって、直接占有者に所持させたまま第三者に占有権を移転する方法
指図による占有移転の成立につき、占有代理人の承諾は不要である。
・売主Aが買主Bに対してCに預けていた目的物を譲渡し、以後その物をBのために占有するよう命じ、Bがこれを承諾する場合
動産物権変動 即時取得
即時取得とは何か
事例
Aは、Bに自己の所有する絵画を預けていた。
しかし、Bは、この絵画を自己の物であると偽って、この事実を過失なく知らないCに対して売却して引き渡してしまった。
この事例の場合、Bは絵画の所有者ではないので、Cは絵画の所有権を取得することができないことになりそうです。
しかし、これではCは安心して取引をすることができません。
そこで、① 取引行為によって、② 平穏に、かつ、公然と、③ 動産の占有を始めた者は、④ 取引行為の相手方が無権利者であることを過失なく知らなかったときは、その動産の権利を取得することができるとされています。
これを即時取得といいます。
参考
即時取得の規定は、不動産賃貸の先取特権について準用される。
要件
① 取引行為
即時取得が成立するためには、取引行為が存在することが必要です。
参考
前主が所有者であるものの行為能力の制限・無権代理などにより後主が権利を取得できない場合は、有効な「取引行為」があったとはいえないので、即時取得は成立しない。
「取引行為」に当たるか当たらないかは、以下のとおりです。
「取引行為」に当たる 強制競売・質権設定・代物弁済
「取引行為」に当たらない 山林の伐採・遺失物の拾得・相続
② 平穏・公然
平穏・公然の意味は、取得時効の場合と同様です。
平穏・公然は、186条1項により推定されます。
③ 動産の占有を始めたこと
即時取得が成立するためには、目的物が動産であることが必要です。
また、「占有を始めた」とは、現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転のいずれかの方法により占有を取得したことが必要であり、占有改定では足りません。
重要判例
道路運送車両法による登録を受けていない自動車については、192条の適用があるのに対し、登録を受けている自動車については、192条の適用はない。
④ 善意無過失
善意は、186条1項により推定されます。
また、無過失は、188条により推定されます。
(3)効果
即時取得の効果として、動産について行使する権利を取得することが挙げられます。
ここにいう「動産について行使する権利」とは、取引の性質から認められる権利のことであり、売買なら所有権、質入れなら質権となります。
参考
・即時取得による権利の取得は、前主からの承継取得ではなく、前主の権利に基づかない原始取得であるとされている。
・賃借権の即時取得は認められない。
(4)盗品・遺失物の特則
即時取得が成立した場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができます。
もっとも、占有者が、盗品又は遺失物を競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができません。
重要判例
占有者は、盗品等が被害者等に返還された後でも代価の弁償を請求することができ、また、代価の弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有する。
混同
(1)所有権と他物権の同一人への帰属
事例
Aは、Bの所有する土地につき地上権の設定を受けてこの土地を使用していたが、その後、Bからこの土地を買い受けた。
同一の物について所有権及び他の物権(地上権・抵当権など)が同一の人に帰属したときは、当該他の物権は混同によって消滅します。
したがって、上の事例において、Aの地上権は消滅することになります。
これは、所有権が使用・収益・処分のすべてをなしうる権利である以上、他の物権(Aの地上権)を併存させておく必要がないからです。
もっとも、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的となっているときは、この限りではありません。
例えば、B所有の土地やAの地上権を目的とする抵当権が設定されていた場合、Aの地上権は消滅しません。
(2)所有権以外の物権とこれを目的とする権利の同一人への帰属
事例
Aは、Bの所有する土地につき地上権の設定を受けてこの土地を使用していたが、母親であるCがDに対して有する債権を担保するため、この地上権に抵当権を設定した。
その後、Cが死亡してAがCを単独で相続した。
所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利(抵当権など)が同一人に帰属したときは、当該他の権利は混同によって消滅します。
したがって、上の事例において、Cが有していた抵当権は消滅することになります。
もっとも、所有権以外の物権又は他の権利が第三者の権利の目的であるときは、当該他の権利は消滅しません。
例えば、Bの地上権を目的として第二順位の抵当権が設定されていた場合や、Cが有していた抵当権を目的として転抵当権が設定されていた場合には、Cが有していた抵当権は消滅しません。
(3)占有権に関する特則
混同の規定は、占有権には適用されません。
なぜなら、占有権は、所有権その他の権利とは別個の目的を有し、所有権などの他に占有権を有することには独立の意味があるからです。
占有権
占有権の取得
(1)占有の種類
① 自己占有
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します。
② 代理占有
占有権は、代理人によって取得することができます。
例えば、賃借人が建物を占有している場合、賃借人を通じて間接的に建物を占有している賃貸人にも占有権が認められます。
この賃貸人の占有を代理占有といいます。
参考
代理権が消滅しただけでは、占有権は消滅しない。
(2)占有の性質の変更
権原の性質上、占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、① 自己に占有させた者に対して所有の意思があることを表示し、または、② 新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は変わりません。
これは、所有の意思に基づかない占有(他主占有)が所有の意思をもってする占有(自主占有)に転換することを認めることで、他主占有者にも取得時効が成立する余地を認めたものです。
(3)占有の承継
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、または自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができます。
もっとも、前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵(悪意など)も承継します。
重要判例
占有者の承継人が自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張した場合、10年の取得時効の要件である善意無過失は、前の占有者の占有開始時を基準に判断される。
占有権の効力
(1)権利の推定
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定されます。
したがって、所有権を主張する占有者が占有の事実を証明すれば、その者は所有者と推定され、それを争う者が占有者に所有権がないことを証明しなければならなくなります。
(2)善意占有と悪意占有
善意占有とは、本権がないにもかかわらずこれがあるものと誤信してする占有のことです。
これに対して、悪意占有とは、本権のないことを知り、又は本権の存在について疑いを持ちながらする占有のことです。
善意占有の場合と悪意占有の場合では、占有権の効力につき、以下のような違いがあります。
善意占有と悪意占有
果実収取権
善意占有 あり 悪意占有 なし
損害賠償義務
善意占有 現存利益のみ 他主占有者は損害の全部
悪意占有 損害の全部
(3)占有者の費用償還請求権
① 必要費
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができます。
もっとも、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担となります。
ここにいう「通常の必要費」には、家屋の修繕費のうち、大修繕費は入らず、応急的小修繕費のみが含まれます。
② 有益費
占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができます。
具体例をイメージ
例えば、通路の舗装や店舗の内装替えなどに要する費用を支出した場合などである。
もっとも、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます。
そして、これが認められると、占有者は留置権を主張することができなくなります。
占有の訴え
(1)占有の訴えとは何か
占有者は、占有の訴えを提起することができます。
占有の訴えの趣旨は、自力救済の禁止を法的に担保する点にあります。
(2)種類
占有の訴えには、
占有保持の訴え・占有保全の訴え・占有回収の訴えの3つがあります。
占有の訴えは、物権的請求権と類似しています。
つまり、占有保持の訴えは妨害排除請求権に、占有保全の訴えは妨害予防請求権に、占有回収の訴えは返還請求権に相当するものといえます。
要件
占有保持の訴え 占有者がその占有を妨害されたこと
占有保全の訴え 占有者がその占有を妨害されるおそれがあること
占有回収の訴え 占有者がその占有を奪われたこと
参考
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人が侵奪の事実を知っていたときを除き、特定承継人に対して提起することはできない。
その後に占有が悪意の特定承継人に移転した場合も同様である。
重要判例
・占有回収の訴えは、占有者の善意・悪意を問わず認められている。
・「占有を奪われた」とは、占有者の意思に反して所持が奪われることが必要とされており、詐取された場合は含まない。
請求内容
占有保持の訴え 妨害の停止及び損害の賠償
占有保全の訴え 妨害の予防又は損害賠償の担保
占有回収の訴え 物の返還及び損害の賠償
提訴期間
占有保持の訴え
原則 妨害の存する間又は妨害が消滅した後1年以内
例外 工事による占有物の損害は、工事着手の時から1年以内又は工事完成まで
占有保全の訴え
原則 妨害の危険が存する間
例外 工事による占有物の損害のおそれがあるときは、工事着手の時から1年以内又は工事完成前まで
占有回収の訴え
原則のみ・例外なし 占有が奪われた時から1年以内
本権の訴えとの関係
占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げないとされています。
なぜなら、占有の訴えは物の事実的支配に基づく訴えであり、所有権・地上権などの本権に基づく訴えとは何ら関係がないからです。
また、上記のように2つの訴えがまったく別個のものである以上、占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができないとされています。
具体例をイメージ
例えば、真の所有者が無権原で占有する者から占有を侵奪したため、占有者が占有回収の訴えを提起した場合、この占有回収の訴えは、真の所有者の本権に関する主張とは無関係に認められることになる。
重要判例
占有の訴えに対しては、本権に基づく反訴を提起することができる。
所有権
相隣関係
土地は通常 他の土地と隣接していますから、土地の利用は不可避的に近隣の他の土地の利用に何らかの影響を及ぼすことになります。
そこで、民法では、隣接する土地相互間の利用を調整するため、相隣関係に関する規定を設けています。
(1)隣地使用・立入権
土地の所有者は、境界又はその付近において障壁・建物を築造・修繕するため 必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができます。
もっとも、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできません。
参考
隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
(2)隣地通行権
① 通常の場合
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができるとされており、隣地通行権が認められています。
この趣旨は、土地の有効な利用を図る点にあります。
また、隣地通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければなりません。
重要判例
他の土地に囲まれて公道に通じない土地を取得した者は、所有権移転登記をしなくても、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
参考
・隣地通行権を有する場合、通行の場所及び方法は、通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために最も損害が少ないものを選ばなければならない。
・公道に至るための他の土地の通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
② 分割・一部譲渡による場合
事例
ABが共同で所有する土地を甲土地と乙土地に分割し、甲土地をAが、乙土地をBが所有することとした。
その結果、甲土地は、乙土地とCの所有する丙土地に囲まれて公道に通じなくなった。
分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができます。
したがって、甲土地の所有者であるAは、他の分割者Bの所有する乙土地のみを通行することができます。
この場合においては、償金を支払う必要はありません。
このように無償の通行権が認められるのは、公道に通じない土地が生ずることがわかっている以上、通行路の必要性も当然予期できたはずだからです。
なお、これらの規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合にも準用されます。
重要判例
分割・一部譲渡によって生じた隣地通行権は、通行の対象となる土地に特定承継が生じた場合でも消滅しない。
(3)雨水を隣地に注ぐ工作物の設置禁止
土地の所有者は、直接に 雨水を隣地に注ぐ構造の屋根 その他の工作物を設けてはなりません。
(4)境界線上の境界標等の共有推定
境界線上に設けた境界標・囲障・障壁・溝・塀は、相隣者の共有に属するものと推定されます。
(5)竹木の切除
隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができます。
これに対して、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、自らその根を切り取ることができます。
(6)境界線付近の建築制限
境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓・縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければなりません。
所有権の取得
(1)無主物先占
所有者のない動産については、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得することができます。
これに対して、所有者のない不動産は、国庫に帰属します。
(2)遺失物拾得
遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後 3ヶ月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得します。
(3)埋蔵物発見
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後 6ヶ月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得します。
ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得します。
(4)添付
添付とは、数人の所有に属する数個の物の結合や加工により生じた物について、社会経済的要求から所有権の取得を認めるものです。
この添付には、以下の3種類があります。
① 付合
付合とは、数個の物が結合し一体化するか、又は分離することができても分離により社会経済的にみて著しく不利益になる状態を生ずることです。
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得します。
もっとも、権原によってその物を附属させた他人の権利は妨げられません。
具体例をイメージ
例えば、他人の土地に賃借権を有している者が、その賃借権に基づいて木を植えたときは、その木の所有権を失わない。
次に、所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったとき、又は分離するのに過分の費用を要するときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属します。
また、付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有します。
② 混和
混和とは、各別の所有者に属する物が識別することができなくなることです。
この場合、動産の付合の規定が準用されます。
具体例をイメージ
例えば、所有者の異なる液体が混ざり合った場合などである。
③ 加工
加工とは、他人の動産に工作を加え、新たな物を製作することです。
加工者があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属するのが原則です。
もっとも、
① 工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得します。
また、
② 加工者が材料の一部を供した場合において、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときも、加工者がその加工物の所有権を取得します。
重要判例
建築途中の未だ独立の不動産に至らない建前に第三者が材料を供して工事を施し独立の不動産である建物に仕上げた場合における建物所有権の帰属は、付合の規定ではなく、加工の規定に基づいて決定すべきである。
共有
(1)共有とは何か
事例
Aは、友人のBとともに、1000万円の土地を500万円ずつ出し合ってCから購入した。
この事例のように、2人以上の人が1個の物を共同して所有する場合のことを、共有といいます。
(2)共有持分
① 共有持分とは何か
共有持分とは、共有者のそれぞれが目的物に対して有している権利のことです。各共有者の持分は、当事者の合意で決定されるのが通常ですが、合意がないときは相等しいものと推定されます。
各共有者は、共有持分を自由に処分することができます。
② 放棄等
共有者の1人がその持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属します。
重要判例
共有者の1人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、958条の3に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、この財産分与がされないときに、255条により他の共有者に帰属する。
(3)共有物の利用
① 共有物の使用
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができます。
例えば、上の事例の場合、A及びBは、土地の半分ずつしか使えないのではなく、土地全部を半年ずつ交代で使うことができるのです。
重要判例
・共有物の持分の価格が過半数を超える者であっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡しを請求することができない。
・共有者の1人が、他の共有者との協議に基づかないで第三者に対して共有物の占有使用を承認した場合でも、他の共有者は、当然にはその第三者に対して共有物の明渡しを請求することはできない。
② 共有物の保存・管理・変更
共有物の保存・管理・変更については、以下のように、なしうる要件・決定方法がそれぞれ異なっています。
【共有物の保存・管理・変更】
保存 共有物の現状維持を図る行為
管理 共有物を変更しない限度で経済的用法に従って使用・収益を図る行為
変更 共有物の性質・形状の物理的変更又は法律的処分
具体例
保存
① 不法占有者に対する明渡請求
② 不実の持分移転登記の抹消請求
管理
① 共有物の使用貸借契約の解除
② 共有物の賃貸借契約の解除
変更
① 共有地上の樹木全部の伐採
② 共有地への地上権の設定
③ 共有物の売却
決定方法
保存 各共有者が単独でなしうる
重要判例
各共有者は、第三者の違法な行為に対して、単独では、持分相当額の損害賠償請求しかなし得ない
管理 各共有者の持分の価格の過半数で決定
変更 共有者全員の同意が必要
(4)共有物の分割
① 可否
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます。
ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることもできます。
② 方法
共有物の分割方法には、共有物自体を分割する現物分割、共有物を売却してその代金を分割する代金分割があります。
また、共有物を共有者のうち 特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があり、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても 共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、共有物を共有者のうちの1人の単独所有とし、この者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(これを全面的価格賠償といいます)によることも許されます。
③ 参加
共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができます。
用益物権
用益物権とは、他人のもっている物を使用・収益する権利のことです。
この用益物権は、地上権・永小作権・地役権の3種類が代表的なものです。
地上権
(1)地上権とは何か
地上権とは、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利のことです。
「工作物」には、建物・橋・トンネルなどがあります。
また、「竹木」には種類の制限がありませんが、果樹や茶のようにその栽植が耕作とみられるものは、永小作権の目的となります。
(2)借地借家法の適用
地上権が建物所有目的で設定された場合、このような地上権は借地権と呼ばれ、借地借家法が適用されます。
(3)区分地上権
地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができます。これを区分地上権といいます。
永小作権
永小作権とは、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利のことです。
このように、小作料を支払わなければならないとされている点が地上権と異なりますが、その性質は地上権に類似しています。
地役権
(1)地役権とは何か
地役権とは、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利のことです。
そして、地役権が設定された他人の土地を承役地、地役権の便益を受ける自己の土地を要役地といいます。
具体例をイメージ
例えば、甲土地に行きやすくするために、接着した乙土地を通行できる地役権を設定する場合などである。
(2)地役権の性質
① 付従性
地役権は、2つの土地の利用関係を調節するために存立するものですから、設定行為に別段の定めがない限り、要役地の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となります。
また、地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができません。
このような性質を地役権の付従性といいます。
② 不可分性
地役権は、ある土地とある土地との物理的位置関係を前提として設定されますから、要役地又は承役地が共有地であるときに共有者各人の持分権を個別のものとしてとらえると不都合をきたす場合があります。
そこで、民法は、共有地にかかる地役権をできるだけ共有地の全体につき 合一に存続させるため、いくつかの規定を置いています。このような性質を 地役権の不可分性といいます。
具体例をイメージ
例えば、共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する 各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。
(3)時効
① 取得時効
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができます。
② 消滅時効
要役地が数人の共有に属する場合において、その1人のために時効の完成猶予・更新があるときは、その完成猶予・更新は、他の共有者のためにも、その効力を生じます。
また、地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅します。
【用益物権のまとめ】
存続期間
地上権 当事者間で永久と定めることも可能
永小作権 20年から50年の範囲で定めることができる
地役権 民法上 存続期間に関する規定がないから、当事者間で永久と定めることも可能
地代・小作料
地上権 要素でない
永小作権 要素である
地役権 要素でない
物権的請求権
地上権と永小作権は、返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権すべてある
地役権 返還請求権はない、妨害排除請求権と妨害予防請求権はある
抵当権の設定
地上権と永小作権は、可能
地役権は設定できない
担保物権
明文規定のある担保物権には、留置権・先取特権・ 質権・抵当権の4種類があります。
他方、明文規定のない担保物権には、譲渡担保などがあります。
担保物権とは何か
(1)担保物権の分類
担保物権とは、他人のもっている物を自分の債権の満足を確保するために処分する権利のことです。
この担保物権は、法律が規定する一定の要件を満たすと当然に成立する法定担保物権と、契約によって成立する約定担保物権に分類されます。
法定担保物権には留置権・先取特権が、約定担保物権には質権・抵当権があります。
【担保物権の分類】
法定担保物権 留置権・先取特権
約定担保物権 質権・抵当権
担保物権の効力
担保物権の効力には、優先弁済的効力・留置的効力・収益的効力の3つがあります。
【担保物権の効力】
優先弁済的効力
債務の弁済が得られないときに、担保の目的物の有する価値から他の債権者に優先して弁済を受けることのできる効力
留置的効力
債務が完済されるまで担保権者が目的物を留置することができる効力
収益的効力
担保権者が担保の目的物を収益し、これを債務の弁済に充当することができる効力
(3)担保物権の通有性
担保物権の通有性には、付従性・随伴性・不可分性・物上代位性の4つがあります。
【担保物権の通有性】
付従性
債権が発生しなければ担保物権も発生せず、債権が消滅すれば担保物権も消滅するという性質
随伴性
被担保債権が第三者に移転すると、担保物権もこれに伴って第三者に移転するという性質
不可分性
被担保債権の全額の弁済を受けるまで、目的物の全部について権利を行使することができるという性質
物上代位性
目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても優先弁済的効力を行使することができるという性質
担保物権の効力と通有性についてまとめると、以下の表のようになります。
参考
増減変動する不特定の債権を担保する元本確定前の根抵当権には、付従性・随伴性が認められていない。
受験テクニック
以下の表は「バツ」の方が少ないので、「バツ」の部分を覚えておいて、それ以外は「マル」と判断してしまいましょう。
【担保物権のまとめ】
〔効力〕
優先弁済的効力 留置権のみ 無い
留置的効力 先取特権と抵当権は 無い
収益的効力 基本、どれもなく、不動産質権のみ ある
〔通有性〕
ほとんどどれもあって、唯一無いのが、留置権の物上代位性
留置権
(1)留置権とは何か
事例
Aは、Bに対し、自分の所有する時計の修理を依頼して引き渡した。
Bは時計の修理を完了し、修理代金の支払いを請求したが、Aは修理代金を支払ってくれない。
その後、Aは、Bに対して時計の返還を請求した。
Aは、時計の所有者ですから、Bに対して物権的請求権の一種である返還請求権を行使することができるはずです。
しかし、これを認めると、Bは修理代金をもらい損ねてしまうかもしれず、不公平といえます。
そこで、他人の物(時計)の占有者Bは、その物に関して生じた債権(修理代金債権)を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することが認められています。
これを留置権といいます。
(2)要件
① 他人の物を占有していること
留置権の目的物は、債権者の占有する他人の物であればよく、必ずしも債務者の所有物である必要はありません。
参考
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅するため、留置権者の占有は、留置権の成立要件であると同時に存続要件でもある。
② その物に関して生じた債権を有していること
他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有していることが必要とされています。
これを債権と物との牽連性といいます。
債権と物との牽連性が認められるか否かについては、以下の表のようになります。
【債権と物との牽連性】
認められるもの
① 借地人の建物買取請求権の行使によって発生した建物代金債権と土地
② 不動産の買主が売買代金を未払いのまま目的物を第三者に譲渡した場合における、売主の買主に対する代金支払請求権と目的物
認められないもの
① 借家人の造作買取請求権の行使によって発生した造作代金債権と建物
② 不動産の二重売買で一方の買主のため所有権移転登記がされた場合における、他方の買主の売主に対する損害賠償請求権と不動産
③ 不動産の賃貸借が終了した場合における、賃借人の賃貸人に対する敷金返還請求権と不動産
④ 他人物売買の売主が真の所有者から所有権を取得して移転できなかった場合における、買主の売主に対する損害賠償請求権と目的物
③ 債権が弁済期にあること
期限前には履行を強制し得ないことから、債権が弁済期にあることが必要です。
④ 占有が不法行為によって始まったものでないこと
占有が不法行為によって始まったものであるときは、留置権は成立しません。
具体例をイメージ
例えば、時計を盗んだ者が、その時計について必要費を支出した場合などである。
重要判例
建物の賃借人が、債務不履行により賃貸借契約を解除された後、権原のないことを知りながらこの建物を不法に占有する間に有益費を支出しても、当該賃借人は、295条2項の類推適用により、有益費の償還請求権に基づいてこの建物につき留置権を行使することはできない
(3)効力
① 引換給付判決
物の引渡しを求める訴訟において、被告が留置権を主張した場合、原告の請求を全面的に棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡しを命ずる引換給付判決をすべきものとされています。
② 不可分性
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができます。
重要判例
留置権者は、留置物の一部を債務者に引き渡した場合においても、特段の事情のない限り、債権の全部の弁済を受けるまで、留置物の残部につき留置権を行使することができる。
③ 善管注意義務
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければなりません。
また、留置権者は、留置物の保存に必要な使用をする場合を除き、債務者の承諾を得なければ、留置物の使用・賃貸・担保提供ができません。
これらの規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができます。
重要判例
留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、これにつき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が留置物の使用・賃貸についての承諾を受けていたときは、新所有者は、留置権者に対し、この使用等を理由に留置権の消滅請求をすることはできない。
④ 果実からの債権回収
留置権者は、留置物から生ずる果実を取得し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができます。
果実は少額のことが多いため、いちいち留置物の所有者に返還させるのではなく、弁済に充当することを認めたものです。
⑤ 費用償還請求権
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができます。
また、留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができます。
参考
裁判所は、所有者の請求により、有益費の償還について相当の期限を許与することができる。
相当の期限が許与された場合、留置権の成立要件のうち「被担保債権が弁済期にあること」という要件を欠くため、留置権は成立しない。
(4)留置権の消滅
① 債権の消滅時効
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げません。
重要判例
被担保債権の債務者が原告である訴訟において、被告である債権者が留置権を主張した場合には、当該債権について消滅時効の完成猶予の効力が認められる。
② 代担保の請求
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができます。
これは、被担保債権額に比べて過大な価値の物が留置されているような場合に実益があります。
③ 占有の喪失
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅しますが、債務者の承諾を得て留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、消滅しません。
先取特権
(1)先取特権とは何か
事例
Aは、Bをパートで雇い製造業を営んでいたが、経営に行き詰ったため、Bの今月分の給料10万円を支払っていなかった。
また、Aは、銀行からも90万円を借りており、こちらも返済していなかった。
なお、Aは、現在手持ちの資金が10万円しかなかった。
債権者が複数いて債務者の財産が債権の総額に満たない場合、債権者は、自分のもっている債権額に応じて平等に分配を受けることになるのが原則です。
これを債権者平等の原則といいます。
この債権者平等の原則によると、上の事例では、10万円の給料債権をもっているBが1万円、90万円の貸金債権をもっている銀行が9万円の分配を受けることになります。
しかし、1ヶ月分の給料が1万円しかもらえないとすると、Bの生活は行き詰まってしまいます。
そこで、給料債権のように特に保護すべき債権を有する者は、債務者の財産から、他の債権者に優先してその債権の弁済を受けることができるとされています。
このような権利を先取特権といいます。
したがって、上の事例では、Bは、銀行に優先して、10万円全額の分配を受けることができます。
(2)先取特権の種類
先取特権は、総財産を目的とする一般先取特権、特定の動産を目的とする動産先取特権、特定の不動産を目的とする不動産先取特権の3種類に分類されます。
① 一般先取特権
一般先取特権の被担保債権には、共益の費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給の4種類があります。
このように被担保債権が小口のものに限定されているのは、一般先取特権は債務者の総財産を対象とする担保物権である上に、公示の制度もないため、大きな債権を担保すると、他の債権者との公平を害するからです。
② 動産先取特権
不動産の賃貸借、旅館の宿泊、旅客又は荷物の運輸、動産の保存、動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務、工業の労務によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有します
参考
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
参考
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。
重要判例
動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部又は一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
③ 不動産先取特権
不動産の保存・工事・売買によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有します
(3)効力
① 優先弁済権
先取特権の中心的な効力は優先弁済権(目的物を強制的に換価して優先弁済を受ける権利)です
参考
不動産賃貸の先取特権は、動産売買の先取特権に優先する
② 物上代位
先取特権は、その目的物の売却・賃貸・滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができます。
これを物上代位といいます。
ただし、物上代位をするためには、払渡又は引渡しの前に差押えをしなければなりません。
重要判例
動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後は、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができない。
質権
(1)質権とは何か
事例
Aは、Bからお金を借りる際に、貸金債権を担保するため、自分の所有する時計に質権を設定する契約をした上で、この時計をBに引き渡した。
質権とは、債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物(時計)を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことです。
つまり、質権者は、債権が弁済されなかった場合には、債務者などから受け取った物を競けい売ばいにかけて、その代金から優先的に弁済を得ることができます。
質権には、目的物の種類に応じて、動産質・不動産質・権利質の3種類があります。
【質権の種類】
〔対抗要件〕
動産質 占有の継続
不動産質 登記
権利質 設定者からの通知又は第三債務者の承諾
参考
・動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、対抗要件を欠くため、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる
・質権は、債権などの財産権の上にこれを設定することができる
〔存続期間〕
動産質と権利質に存続期間はない
不動産質 10年
〔使用収益権〕
動産質 原則なし
不動産質 あり
権利質 なし
〔果実収取権〕
動産質 収取して他の債権者に優先して債権の弁済に充当可
不動産質 当然に収取可
権利質 なし
〔必要費償還請求権〕
動産質 全額請求可
不動産質 原則として請求不可
権利質 なし
〔利息請求〕
動産質と権利質は可能
不動産質は不可
〔優先弁済〕
動産質 目的物の換価のほか、簡易な弁済充当が可能
不動産質 目的物の換価のみ可能
権利質 目的債権の換価のほか、直接取立てが可能
■
(2)質権の設定
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生じます。
もっとも、質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができませんので、占有改定はここにいう引渡しには当たりません。
(3)質権の効力
① 被担保債権の範囲
質権は、設定行為に別段の定めがある場合を除き、元本・利息・違約金・質権の実行の費用・質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保します。
抵当権の被担保債権の範囲が制限されているのに対し、質権の被担保債権の範囲に制限がないのは、後順位者が現れる可能性が少なく、後順位者の期待を考慮する必要がないからです。
② 留置的効力
質権者は、被担保債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができます。
ただし、この留置的効力は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができません。
③ 優先弁済的効力
競売により目的物を換価することによって優先弁済を得ることができるのみならず、果実から優先弁済を受けることも可能です。
(4)転質
転質とは、質権者が質物をさらに質入することです。質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができます。
この場合、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負わなければなりません。
よくある質問
Q
348条は「自己の責任で、…転質をすることができる」としているのに、350条の準用する298条2項本文は「承諾を得なければ、…担保に供することができない」となっています。
この2つの条文はどのような関係なんですか?
アンサー
質権者は、原則として、質権設定者の承諾を得なければ、質物を担保に供することができません。(承諾転質)
もっとも、転質については、例外的に、質権設定者の承諾を得なくても自己の責任ですることが認められています。(責任転質)
(5)流質契約
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約すること(流質契約)ができません。
これに対して、債務の弁済期後の契約においては、このような約定も可能です。
抵当権
(1)抵当権とは何か
事例
Aは、Bからお金を借りる際に、貸金債権を担保するため、自分の所有する建物に抵当権を設定する契約をした上で、引き続きこの建物に住んでいる。
抵当権とは、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に提供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことです。
つまり、抵当権者は、債権が弁済されなかった場合には、抵当権を実行して(抵当権を設定した不動産を競売にかけて)、その代金から優先的に弁済を得ることができます。
抵当権は、質権と類似した担保物権ですが、
① 抵当権の目的物は不動産に限られているのに対し、質権の目的物は不動産に限られていない点
② 抵当権は目的物の占有を債権者に移転しない(引き渡さない)のに対し、質権は目的物の占有を債権者に移転する(引き渡す)点が異なります。
(2)抵当権の設定
① 目的
民法上、抵当権の目的となるのは不動産とされており、動産に抵当権を設定することはできません。
なお、地上権・永小作権も、抵当権の目的とすることができます。
② 被担保債権の範囲
抵当権は、付従性を有することから、被担保債権なしには成立しないのが原則です。
もっとも、被担保債権は抵当権設定の時点で存在している必要はなく、将来の債権や条件付き債権も被担保債権となり得ます。(これを付従性の緩和といいます)
抵当権者は、利息 その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができます。
このような制限がなされているのは、無制限に利息や遅延損害金が担保されると、総額で被担保債権がいくらになるかの予測がつかず、後順位抵当権者が目的物の担保価値を評価することが困難となるからです。
重要判例
被担保債権の範囲が制限されているのは後順位抵当権者の利益のためであるから、債務者自身が元本と最後の2年分の利息を提供して抵当権の抹消を請求することはできない。
債務者は、債務の全額を弁済することが必要である。
③ 抵当権の順位
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後によります。
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができますが、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければなりません。
また、順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じません。
(3)抵当権の効力
① 付加一体物
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(抵当不動産)に付加して一体となっている物に及びます。
もっとも、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について詐害行為取消請求をすることができる場合は、付加して一体となっている物であっても抵当権の効力が及びません
重要判例
抵当権の効力は、特段の事情のない限り、抵当不動産の従物にも及び、従物について別個に対抗要件を具備しなくても、第三者に対抗することができる。
参考
石垣や立木などの付合物は、不動産の所有権に吸収されるから、付合する時期が抵当権設定前であるか設定後であるかを問わず、「付加して一体となっている物」に含まれる。
② 借地権
土地賃借人が土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、この抵当権の効力は当該土地の賃借権に及びます。
なぜなら、借地権は建物の従たる権利だからです。
③ 果実
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及びます。
④ 物上代位
事例
AはBに対して3000万円の貸金債権を有しており、この債権を被担保債権としてB所有の建物に抵当権の設定を受けた。
ところが、この建物は、抵当権設定後、Cの放火により焼失してしまった。
この事例の場合、家屋が火災により焼失しているので、抵当権も消滅するとも思えます。
しかし、Bは損害賠償請求権を取得し損害が填補されているのに、Aが抵当権を失うというのは不当です。
そこで、抵当権は、その目的物の売却・賃貸・滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物(BのCに対する損害賠償請求権)に対しても行使することができます。
これを物上代位といいます。
物上代位の目的物については、以下のとおりです。
【物上代位の目的物】
物上代位できるもの
不法行為に基づく損害賠償請求権
火災保険金請求権
賃料債権
買戻代金債権
物上代位できないもの
転貸賃料債権
※抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合は 物上代位できる
抵当権者は、物上代位をするためには、払渡又は引渡しの前に差押えをしなければなりません。
差押えが要求される趣旨は、抵当権の効力が及ぶことを知らない第三債務者が弁済先を誤らないようにする点にあります。
重要判例
・抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
・債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決すべきである。
・対抗要件を備えた抵当権者が、物上代位権の行使として目的債権を差し押さえた場合、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたとしても、それが抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、当該第三債務者は、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
(4)抵当権侵害
① 妨害排除請求
第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態にあるときは、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができます。
また、占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者についても、抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態にあるときは、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができます。
参考
抵当不動産の所有者が、抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることもできる。
まとめると、以下のようになります。
【抵当権に基づく妨害排除請求の要件】
不法占有者に対する請求・占有権原の設定を受けている者に対する請求、共に
客観的要件
抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態
不法占有者に対する請求
主観的要件は、不要
占有権原の設定を受けている者に対する請求
主観的要件は、抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的
② 損害賠償請求
抵当権が侵害され、抵当不動産の交換価値の減少により被担保債権の弁済を受けることができなくなった場合、抵当権者は、侵害者に対して損害賠償請求をすることができます。
重要判例
抵当権者は、抵当権を実行する前であっても、被担保債権の弁済期が到来していれば、損害賠償請求をすることができる。
(5)抵当権と抵当不動産利用権の調整
① 法定地上権
事例
Aは、Bから1000万円を借り入れ、これを担保するため、自己の所有する土地建物のうち建物のみに抵当権を設定した。
その後、抵当権が実行されて、Cがこの建物を買い受けた。
この事例の場合、買受人Cは、建物の所有権を取得しても土地の利用権を有しないという不都合が生じます。そこで、買受人のために法律上当然に地上権が発生するものとされています。
これを法定地上権といいます。
法定地上権の要件は、以下の4つです。
【法定地上権の要件】
抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に属すること
土地又は建物の一方又は双方に抵当権が設定されたこと
土地又は建物の所有者が競売により、異なるに至ること
重要判例
・土地に抵当権を設定した当時建物が存在していれば、後にその建物が滅失して再築された場合でも、旧建物を基準とする法定地上権が成立する。
・土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後に建物が取り壊され、土地上に新たに建物が建築された場合、特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。
・土地と建物が同一の所有者に属していれば、登記名義が同一でなくても、この要件を満たす。
・抵当権設定当時に土地及び建物の所有者が同一であるときは、抵当権設定後に土地又は建物が第三者に譲渡された場合でも、法定地上権は成立する。
・抵当権設定当時に土地及び建物の所有者が異なるときは、抵当権の実行による競落の際に土地及び建物が同一人に帰属していても、法定地上権は成立しない。
なお、後順位抵当権があった場合や、土地・建物が共有であった場合の処理は、以下のとおりです。
【後順位抵当権と法定地上権】
1番抵当権を「建物」に設定
1番抵当権設定時・土地上に建物なし、2番抵当権設定時・土地上に建物あり
該当なし
1番抵当権を「土地」に設定
1番抵当権設定時・土地上に建物なし、2番抵当権設定時・土地上に建物あり
法定地上権は成立しない
1番抵当権を「建物」に設定
1番抵当権設定時・土地・建物別人所有、2番抵当権設定時・土地・建物同一人所有
法定地上権が成立する
1番抵当権を「土地」に設定
1番抵当権設定時・土地・建物別人所有、2番抵当権設定時・土地・建物同一人所有
法定地上権は成立しない
重要判例
1番抵当権が消滅した後に、2番抵当権が実行された場合には、法定地上権が成立する。
【共有と法定地上権】
建物に抵当権設定
建物が共有 法定地上権が成立する
土地が共有 法定地上権は成立しない
土地に抵当権設定
建物が共有 法定地上権が成立する
土地が共有 法定地上権は成立しない
② 一括競売
更地に抵当権を設定した後に築造された建物のためには法定地上権が成立せず、このような建物が存在すると土地のみの競売が困難となります。
そこで、抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができます。
もっとも、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができます。
③ 抵当不動産の賃借人の保護
抵当権設定登記後に抵当建物について賃借権が設定された場合、その賃借権は抵当権に対抗できず、賃借人は出ていかなければならないはずです。
もっとも、これでは賃借人に酷な場合がありますので、以下のような賃借人の保護のための制度が設けられています。
【抵当不動産の賃借人の保護】
同意の登記による賃貸借の対抗制度
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる
建物使用者の明渡猶予制度
抵当建物使用者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しないが、建物の使用をしたことの対価を支払う必要がある。
参考
買受人の買受けの時より後に建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し、相当の期間を定めてその1ヶ月分以上の支払いの催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、明渡猶予制度は適用されない
(6)抵当権の消滅
① 代価弁済・抵当権消滅請求
事例
Aは、Bから1000万円を借り入れ、これを担保するため、自己の所有する土地に抵当権を設定した。
その後、Aは、この土地をCに譲渡した。
この事例のCのような、抵当不動産の所有権を取得した者を、第三取得者といいます。
この第三取得者は、いつ抵当権が実行され所有権を失うかわからないので、抵当権を消滅させて第三取得者の所有権を安定させる必要があります。
そこで、抵当権者が請求する代価弁済、第三取得者が請求する抵当権消滅請求が認められています。
参考
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。
【代価弁済と抵当権消滅請求】
なしうる者
所有権取得者
代価弁済も抵当権消滅請求も可能
地上権取得者
代価弁済は可能、抵当権消滅請求は不可
無償取得者
代価弁済は不可、抵当権消滅請求は可能
主たる債務者・保証人・これらの承継人
代価弁済は制度なし、抵当権消滅請求は不可
請求者
代価弁済は 抵当権者、抵当権消滅請求は 第三取得者
効果
代価弁済・抵当権消滅請求 共に 抵当権が消滅する。
参考
地上権取得者が代価弁済をする場合、抵当権は消滅せず、地上権に対抗できなくなるのみである。
② 抵当権の消滅時効
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しません。
これは、消滅における付従性を定めたものですので、債務者及び抵当権設定者との関係では、被担保債権が消滅しないのに抵当権だけが時効によって消滅することはありません。
重要判例
396条の反対解釈から、抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者との関係では、抵当権は、被担保債権とは別に20年の消滅時効によって消滅する。
③ 目的物の取得時効による消滅
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅します。
この趣旨は、債務者又は抵当権設定者にまで、抵当不動産の時効取得による抵当権消滅の効果を認めるのは妥当でないことから、これらの者を除外する点にあります。
④ 目的たる用益権の放棄
地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができません。
なぜなら、抵当権の目的物としてその拘束を受けている以上、その権利の主体であっても、これを自由に消滅させられるものではないからです。
重要判例
借地上の建物に抵当権を設定した者の借地権の放棄も、抵当権者に対抗することができない。
根抵当権
(7)根抵当権
① 根抵当権とは何か
事例
小売店を営むAは、問屋を営むBから継続的に供給を受ける商品の代金債務を100万円の限度で担保するため、自己の所有する土地に抵当権を設定した。
この事例のように、一定の範囲に属する不特定の債権を一定の額(これを極度額といいます)まで担保するために設定する抵当権を、根抵当権といいます。
そして、根抵当権によって担保される債権のことを元本といいます。
参考
元本確定期日の定めのない根抵当権設定契約も有効である。
② 内容の変更
根抵当権は継続的な取引から生ずる債権を担保するため、1つの債権が弁済されても消滅せず、長期間にわたって存続することになります。その結果、途中で根抵当権に関わる様々な要素が変更する可能性があります。
そこで、このような状況の変化に対応するための規定が置かれています。
【根抵当権の変更】
〔なし得る時期〕
被担保債権の範囲・債務者の変更 確定前のみ
極度額の変更 確定後も可能
元本確定期日の変更 確定前のみ
〔利害関係人の承諾〕
被担保債権の範囲・債務者の変更 不要
極度額の変更 必要
元本確定期日の変更 不要
③ 確定
確定とは、根抵当権によって担保される元本債権が特定することです。
これによって、それまでに生じた債権が被担保債権となり、その後に発生する元本債権は担保されなくなるので、根抵当権は通常の抵当権とほぼ同様になります。
したがって、債務者は確定した債務を弁済すれば根抵当権を消滅させることができますし、債権者は債権を根抵当権付きで譲渡することができます。
6 譲渡担保
受験テクニック
譲渡担保権は、抵当権の動産バージョンと考えておけばよいでしょう。
(1)譲渡担保とは何か
事例
工場を経営するAは、Bからお金を借りる際に、貸金債権を担保するため、自分の所有する機械の所有権を譲渡した上で、引き続きこの機械を使用している。
譲渡担保とは、債権の担保のため目的物の所有権などを債権者に譲渡し、一定期間内に債務を弁済した場合は所有権が再び債務者に復帰するという形式の担保のことです。
この事例において、Aの所有している財産が機械しかなかった場合、動産に抵当権を設定することはできませんから、機械に抵当権を設定してお金を借りることはできません。
また、機械に質権を設定してしまうと、機械を債権者Bに引き渡さなければならなくなってしまい、工場で機械を使用することができません。
そこで、Aが引き続き機械を使用することを可能にしつつ 担保を設定する方法として、実務上 多く採られているのが譲渡担保です。
譲渡担保権を設定した場合、Aが貸金債務を弁済すれば、機械の所有権はAに復帰しますが、弁済しなかった場合は、機械の所有権は確定的にBに帰属することになります。
(2)譲渡担保権の及ぶ範囲
① 借地権
土地賃借人が土地上に所有する建物について譲渡担保権を設定した場合には、原則として、譲渡担保権の効力が当該土地の賃借権に及びます。
この点は、抵当権の場合と同様です。
② 物上代位
譲渡担保の目的物を債務者が第三者に売却した場合、譲渡担保権者は、債務者の第三者に対する売買代金債権についても、物上代位により譲渡担保権を行使することができます。
(3)譲渡担保権の実行
① 実行方法
債務者が債務を弁済しなかった場合の譲渡担保権の実行方法には、処分清算型・帰属清算型の2種類があります。
【譲渡担保権の実行方法】
処分清算型
債権者が目的物を第三者に譲渡し、その売買代金を被担保債権の弁済に充て、その残額(清算金)を債務者に返還する方法
帰属清算型
債権者が目的物の価値を適正に評価して、評価額と被担保債権の差額(清算金)を債務者に返還し、目的物の所有権を債権者に帰属させる方法
② 受戻権
受戻権とは、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行を完了するまでの間、債務者が債務を弁済して目的物の所有権を回復させることができる権利のことです。
受戻権は、以下の時期に消滅します。
【受戻権の消滅時期】
処分清算型
債権者が目的物を第三者に譲渡した時
帰属清算型
債権者が債務者に対して清算金の支払いをした時、又は、目的物の評価額が被担保債権額を上回らない旨を通知した時
重要判例
不動産の譲渡担保において、清算金が支払われる前に目的不動産が債権者から第三者に譲渡された場合、原則として、債務者はもはや残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできず、このことは譲受人が背信的悪意者に当たる場合であっても異ならない。
(4)集合動産譲渡担保
① 集合動産譲渡担保とは何か
集合動産譲渡担保とは、動産の集合体を対象として譲渡担保を設定した場合のことです。
構成部分の変動する集合動産であっても、その種類・所在場所・量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、1個の集合物として譲渡担保の目的となり得ます。
具体例をイメージ
例えば、小売店を経営する債務者が、貸金債務を担保するため、在庫商品の所有権を一括して譲渡する場合などである。
② 対抗要件
集合動産譲渡担保の対抗要件は、引渡しであり、一般の動産物権変動の場合と同様に、占有改定による引渡しが認められています。
重要判例
集合動産の譲渡担保において、債権者が譲渡担保の設定に際して占有改定の方法により現に存する動産の占有を取得した場合、その対抗要件具備の効力は、その構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産についても及ぶ。
③ 設定者の処分権
集合動産の譲渡担保において、設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をしたときは、目的物が当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできません。
(5)集合債権譲渡担保
① 集合債権譲渡担保とは何か
集合債権譲渡担保とは、債権の集合体を対象として譲渡担保を設定した場合のことです。
集合債権の譲渡担保において、それが有効と認められるためには、契約締結時において、目的債権が他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足り、将来における目的債権の発生が確実といえることまでは必要ありません。
具体例をイメージ
例えば、特定の債権者・債務者間で継続的に発生する債権を一括して譲渡する場合や、多数の債務者の小口債権を一括して譲渡する場合などである。
② 対抗要件
集合債権譲渡担保の第三債務者に対する対抗要件は、設定者の第三債務者に対する通知又は第三債務者の承諾です。
また、第三者に対する対抗要件は、上記の通知又は承諾が確定日付のある証書によってなされる必要があります。
重要判例
既に生じ、又は将来生ずべき債権を譲渡担保権者に譲渡する集合債権譲渡担保について、第三者対抗要件を具備するためには、債権譲渡の対抗要件の方法によることができる。