改正民法 まとめ
 
意思能力制度の明文化
従来から、意思無能力者の行った行為は無効とされていましたが、民法に明文の規定はありませんでした。
そこで、一般市民にもわかりやすくするため、意思無能力者の行った行為は無効とすることを明文化しました。

意思表示に関する見直し
意思表示に欠陥がある場合としては、意思の不存在と瑕疵ある意思表示の2つがあり、意思の不存在には心裡留保・虚偽表示・錯誤が、瑕疵ある意思表示には詐欺・強迫による意思表示があります。
これらについて、以下のような改正がなされました。

意思の不存在
心裡留保
善意の第三者を保護する規定を新設した
 
虚偽表示
改正なし
 
錯誤
・判例が定めていた錯誤の要件を明文化した
① 意思表示が錯誤に基づくものであること
② 錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること
③ 動機の錯誤については、
動機である事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること
・錯誤の効果を無効から取消しへと変更した
 
 

瑕疵ある意思表示
詐欺
従来、善意の第三者を保護する規定があったが、善意無過失の第三者を保護する規定へと変更した
 
強迫 改正なし
 
 

消滅時効に関する見直し
 
(1)時効期間と起算点に関する見直し
 
従来、職業別の短期消滅時効が規定されていましたが、職業別の短期消滅時効を廃止し、債権の消滅時効期間を統一することとしました。
また、時効期間の大幅な長期化を避けるため、権利を行使することができる時から10年という時効期間を維持しつつ、権利を行使することができることを知った時から5年という時効期間を追加し、いずれか早い方の経過によって時効が完成することとしました。
 

従来
原則 権利を行使することができる時から 10年
職業別の短期消滅時効
飲食料・宿泊料 1年
弁護士報酬・売掛金 2年 
医師の診療報酬 3年 

改正後
原則
権利を行使することができることを知った時から 5年
権利を行使することができる時から 10年
 
 

(2)生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則
 
従来、生命・身体の侵害による損害賠償請求権であっても、時効期間は他の債権と変わりませんでした。
しかし、生命・身体といった重要な法益については、簡単に消滅時効を認めるべきではないといえます。
そこで、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、以下のとおり時効期間を長期化しました。
(債務不履行につき167条、不法行為につき724条の2)
 
 

債務不履行
通常の損害賠償請求権
主観的期間 5年
客観的期間 10年
 
生命・身体侵害の損害賠償請求権
主観的期間 5年
客観的期間 20年
 
 

不法行為
通常の損害賠償請求権
主観的期間 3年
客観的期間 20年
 
生命・身体侵害の損害賠償請求権
主観的期間 5年
客観的期間 20年
 
 
 

(3)時効完成を妨げる事由の見直し
従来、時効完成を妨げる事由として、時効の中断と時効の停止がありましたが、中断の意味がわかりづらかったため(改正後の完成猶予と更新の両方を含むものになっていたため)、これを見直すこととしました。
改正法では、時効完成を妨げる事由として、
 
① 時効の完成猶予
(時効の完成を一定期間猶予すること、既に経過した時効期間はそのまま)
 
② 時効の更新
(既に経過した時効期間をリセットして新たに時効期間を計算し直すこと)の
2つを規定しています。
なお、改正によって、従来の制度は以下のように振り分けられています。
 
 

中断事由
裁判上の請求 完成猶予事由 たす 更新事由
催告 完成猶予事由
承認 更新事由
停止事由 完成猶予事由
 
 

契約の解除に関する見直し
 
(1)債務者の帰責事由
従来、債務不履行を理由とする解除は、債務者に帰責事由がない場合には認められないとされていました。
しかし、例えば取引先が天災により商品を販売できなくなった場合に、契約を解除して他の取引先から商品を購入できないのでは、不都合が生じます。
そこで、債務者に帰責事由がない場合でも、債務不履行を理由とする解除ができるようにしました。
 

(2)無催告解除が可能な場合の明文化
従来、無催告解除が可能な場合として、
① ある時期までに履行がなければ契約の目的が達成できない場合
② 履行不能の場合を規定していましたが
他にも
③ 履行を拒絶する意思を明示した場合
④ 契約の目的を達するのに十分な履行が見込めない場合も
解釈により無催告解除が可能とされていました。
そこで、③④について、無催告解除が可能である旨を明文化しました。
 
 

連帯債務に関する見直し
従来、連帯債務者の1人に対する
① 履行の請求、② 債務の免除、③ 時効の完成は、絶対効を有するものとされていました。
しかし、これには以下のような問題点がありました。
 
履行の請求
連帯債務者の1人に対して 履行の請求があったとしても、他の連帯債務者はこれを知らず、いつの間にか履行遅滞に陥ってしまう
 
債務の免除
連帯債務者の1人に対して 債務の免除をした結果、意図していない他の連帯債務者に対しても請求できる額が減ってしまう
 
時効の完成
時効の完成が絶対効を有してしまうと、すべての連帯債務者に対して時効の完成を妨げる措置をとらなければならなくなる
そこで、連帯債務者の1人に対する
履行の請求・債務の免除・時効の完成は、絶対効を有しないものとされました。
 
 

保証に関する見直し
 
(1)個人根保証契約に対する極度額の義務付け
従来、貸金等債務に関する個人根保証契約についてのみ、極度額の定めが義務付けられていました。
しかし、貸金等債務以外の個人根保証契約(賃貸借や継続的売買など)についても、極度額を設けて無制限の保証債務を負わされるリスクを回避する必要性は変わらないといえます。
そこで、貸金等債務以外の個人根保証契約についても、極度額の定めが義務付けられました。

従来
貸金等債務あり 極度額の定め必要
貸金等債務なし 極度額の定め不要

改正後
貸金等債務ありもなしも 極度額の定め必要
 
 
(2)事業用融資における個人保証の制限
金融機関による中小企業への融資の際、経営者の親族・友人など第三者の個人保証を求めることが多いところ、事業用融資は相当程度高額になるため、保証責任の追及を受けた個人が生活破綻に陥ることが多くみられました。
そこで、事業用融資における個人保証人については、保証契約の締結に先立ち、その締結の日前、1ヶ月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じないこととされました。

(3)債権者の情報提供義務
主たる債務者が支払を遅滞すると、期限の利益が喪失したり遅延損害金が発生するため、保証人の負担が増大しますが、保証人は主たる債務者の履行状況を常に知り得るわけではありませんでした。
そこで、保証契約締結後も保証人を保護するべく、債権者に主たる債務の履行状況について情報提供義務を課しました。
 
 

債権譲渡に関する見直し
従来、譲渡制限特約が付された債権の譲渡は無効とされていたため、譲受人が取引に慎重となり、債権譲渡による資金調達が活用されていませんでした。
そこで、譲渡制限特約が付された債権の譲渡も有効とし、債権譲渡による資金調達の活発化を図りました。
 
 

債務引受制度の明文化
従来から、債務引受制度は判例によりルールが定められていましたが、民法に明文の規定はありませんでした。
そこで、一般市民にもわかりやすくするため、債務引受制度が明文化されました。
 
 

危険負担に関する見直し
従来、特定物に関する物権の設定・移転を目的とする双務契約の一方の債務が債務者の責めに帰すべき事由によらないで履行不能となった場合でも、債権者の反対給付債務は存続することとされていました(危険負担の債権者主義)。
したがって、建物の売買契約の直後に大地震で建物が滅失したとしても、代金債務は存続するため、買主は代金を支払わなければなりませんでした。
しかし、このような結論は買主に過大なリスクを負わせるものであり、不合理であることから、危険負担の債権者主義の規定は削除され、反対給付債務の履行を拒絶できることとしました。
 
 

売主の瑕疵担保責任に関する見直し
従来、隠れた瑕疵がある場合に売主の瑕疵担保責任が追及できるものとされていましたが、「隠れた瑕疵」という用語がわかりづらいことから、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約内容不適合)に担保責任を追及できるものとしました。
また、買主の権利として
① 目的物の修補、② 代替物の引渡し、③ 不足分の引渡しによる履行の追完を請求することや、相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができることを明記しました。
 
 

消費貸借に関する見直し
従来、消費貸借は目的物の交付があってはじめて成立する要物契約とされていましたが、判例上合意のみによる消費貸借も認められていたことから、書面による消費貸借は合意のみで認めることとしました。
 
 

賃貸借(敷金)に関する見直し
従来、賃貸借終了時における敷金の返還について民法に規定がありませんでしたが、敷金の返還を巡るトラブルが多かったことから、解決のためのルールを明文化しました。
まず、敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務などを担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭のこととされ、「権利金」「保証金」などの名目であっても、担保目的であれば敷金に当たることとしました。
そして、賃貸人は、
① 賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき、
② 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、延滞賃料などの未払債務を差し引いて、敷金を返還しなければならないとされ、敷金の返還時期と返還の範囲が明記されました。
 
 
 
請負に関する見直し
従来、仕事の目的物に瑕疵がある場合には、請負人が担保責任を負うものとされており、担保責任の内容として、
① 修補の請求、② 損害賠償請求、③ 契約の解除が規定されていました。
また、③ 契約の解除は、土地の工作物(建物など)についてはできないとされていました。
しかし、「瑕疵」という用語がわかりづらいことや、売買と請負で担保責任の内容が大きく異なるのは不合理であることから、請負に関する担保責任の規定を削除し、売買の担保責任の規定を準用することとしました。
 
 
従来
履行の追完  △(目的物の修補のみ)
損害賠償請求 可能
契約の解除  △(土地工作物は不可)
代金減額請求 不可

改正後
履行の追完・損害賠償請求・契約の解除・代金減額請求 全て可能
 
 
 

寄託に関する見直し
従来、寄託は目的物の交付があってはじめて成立する要物契約とされていましたが、これだと寄託者が受寄者に対して物を預かるよう請求することができなかったため、合意のみで認めることとしました。
 
 

預貯金の払戻し制度の新設
遺産分割前は、各共同相続人が単独で被相続人の預貯金の払戻しを受けることができませんでした。
しかし、被相続人の預貯金は、被相続人が負っていた債務の弁済や、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の生活費に充てる必要があります。
そこで、被相続人の預貯金のうち3分の1に法定相続分を乗じた額(金融機関ごとに法務省令で定める額が上限)については、単独で払戻しを受けることができるようになりました。
 
 

遺留分制度の見直し
従来、遺留分を侵害された者は、受遺者・受贈者に対し、遺留分減殺請求をすることができましたが、その結果、相続財産たる事業用不動産(工場のある土地など)が遺留分権利者と受遺者・受贈者の共有になってしまい、事業承継の支障となっていました。
そこで、遺留分権利者は、受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができることとし、権利行使を金銭請求に限定しました。
 
 

配偶者居住権の新設
 
(1)配偶者居住権
配偶者が死亡した場合、生存配偶者は、居住建物(高額なことが多い)を相続すると預貯金を相続できず生活資金に困り、預貯金を相続すると居住建物を相続できず引越しを余儀なくされるという事態に陥っていました。
そこで、住み慣れた居住建物で生活を継続できるよう居住権(住居そのものより低額)を設定しつつ、その後の生活資金として預貯金も一定程度確保できるように、配偶者居住権の制度が新設されました。

(2)配偶者短期居住権
高齢化の進展に伴い、配偶者の一方が死亡した場合に生存配偶者が高齢であることが多く、住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を開始することが大きな負担となりました。
そこで、一定期間住み慣れた居住建物で生活できるように、配偶者短期居住権の制度が新設されました。
 

配偶者居住権
要件
① 被相続人の配偶者であること
② 被相続人の財産に属した建物であること
③ 相続開始の時に居住していたこと
④ 遺産分割又は遺贈によって配偶者居住権を取得するものとされたこと
 
効果
居住建物の全部について、無償で、使用収益する権利を有する
 


配偶者短期居住権
要件
① 被相続人の配偶者であること
② 被相続人の財産に属した建物であること
③ 相続開始の時に無償で居住していたこと
④ 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合であること

効果
① 遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日
② 消滅の申入れの日から6ヶ月までの間、居住建物を無償で使用することができる
 
 

特別の寄与の制度の新設
療養看護等をまったく行わない相続人が遺産の分配を受け、療養看護等に努めた相続人でない被相続人の親族が遺産の分配を受けられないのは不公平であるといえます。
そこで、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができることとされました。