親族
ここでは、夫婦間の婚姻や離婚について学習していきます。
条文・判例ともに出題の多いところなので、条文と重要判例を読み込んでおきましょう。

婚姻
(1)婚姻の無効・取消し
① 婚姻の無効
当事者間に婚姻をする意思がない場合や、当事者が婚姻の届出をしない場合には、婚姻が無効となります。
重要判例
・婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があったとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、婚姻は効力を生じない。
・無効な婚姻届であっても、夫婦としての実質的な関係が存在している場合には、追認によって届出時にさかのぼって婚姻は有効になる。
 
② 婚姻の取消
婚姻の取消原因には、以下のようなものがあります。
なお、未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければなりません。
もっとも、父母の一方が同意しないとき、父母の一方が知れないとき、父母の一方がその意思を表示することができないときは、他の一方の同意だけで足ります。
婚姻の取消しは、家庭裁判所に対して請求する必要があります。
また、婚姻の取消しは、将来に向かってのみ、その効力を生じます。
 

【婚姻の取消原因】
・婚姻適齢(男18歳、女16歳)に達していないこと
・重婚であること
・再婚禁止期間内の婚姻であること
・近親者(直系血族・3親等内の傍系血族)間の婚姻であること
・直系姻族間の婚姻であること(姻族関係終了後も同様)
・養親子間の婚姻であること(親族関係終了後も同様)
・詐欺・強迫による婚姻であること

 
法改正情報
最高裁判所の違憲判決を受けた改正により、女性の再婚禁止期間は、6 ヶ月から100日に短縮されました。
また、前婚の解消・取消の時に懐胎していなかった場合やその後に出産した場合には、再婚禁止期間の適用がないものとされました。
 

(2)婚姻の効果
 
① 身分上の効果
婚姻の身分上の効果には、以下のようなものがあります。
 
【婚姻の身分上の効果】
夫婦同氏
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する
同居・協力・扶助義務
夫婦は同居し、互いに協力し、扶助しなければならない
成年擬制
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなされる
夫婦間の契約取消権
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる
 

参考
婚姻をした未成年者が離婚をした後であっても、成年擬制の効果が失われるわけではない。
重要判例
婚姻が実質的に破綻していた場合、夫婦間の契約取消権は認められない。

② 法定財産制
夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、法定財産制によります。
夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができません。
 
③ 財産の帰属
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担します。
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とされます。
これに対して、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定されます)。
 
④ 日常家事債務の連帯責任
夫婦の一方が日常の家事に関して 第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯責任を負います。
ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、連帯責任は生じません。
なお、この規定は、夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき 他方を代理する権限を有することをも規定したものであると考えられています。
 

重要判例
夫婦の一方が 日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合、その代理権を基礎として一般的に110条所定の表見代理の成立を肯定すべきではなく、その越権行為の相手方である第三者において、その行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき 正当な理由のあるときに限り、同条の趣旨を類推して 第三者の保護を図るべきである。
 
 

離婚
 
(1)離婚の成立
 
① 協議離婚
夫婦は、その協議で、離婚をすることができます。
そして、協議離婚は、離婚意思の合致と届出をすることによって成立します。

重要判例
離婚意思は法律上の婚姻関係を解消する意思で足りるため、生活保護の受給を継続するための方便としてなされた離婚も有効である。

② 裁判離婚
夫婦の一方は、不貞行為・悪意の遺棄・3年以上の生死不明・回復の見込みのない強度の精神病・婚姻を継続し難い 重大な事由がある場合に限り、離婚の訴えを提起することができます。
ただし、裁判所は、これらの事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができます。
 

(2)離婚の効果
 
① 離婚による復氏
婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、離婚によって婚姻前の氏に復することになります。
もっとも、婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができます。
 
② 親権者の決定
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりません。
また、裁判上の離婚の場合には、裁判所が、父母の一方を親権者と定めます。
これらは、離婚後に共同して親権を行使するのは困難であることに配慮したものです。
 
③ 監護者の決定
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護について必要な事項を、その協議で定めます。
そして、平成23年の民法の改正によって、この場合には、子の利益を最も優先して考慮しなければならない旨が規定されました。
なお、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定めます。
 
④ 財産分与
離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます。
そして、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることになります。
 
 

重要判例
・当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の額及び方法を定めることができる。
・財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、その額及び方法において、請求者の精神的苦痛を慰謝するには足りないと認められるときは、別個に不法行為を理由として離婚による慰謝料を請求することができる。
 

なお、離婚と夫婦の一方の死亡との違いは、以下のとおりです。
 
【離婚と夫婦の一方の死亡】
姻族関係
離婚、当然に終了する
夫婦の一方の死亡、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときに 終了する
復氏
離婚、当然に婚姻前の氏に復する
夫婦の一方の死亡、当然には婚姻前の氏に復しない
 

親子
 
ここでは、血縁関係のある実子と、血縁関係のない養子について学習していきます。
条文からの出題が多いので、条文をしっかり押さえていきましょう。
 
実子
(1)実子の種類
実子は、婚姻関係にある男女間に生まれた嫡出子と、婚姻関係にない男女間に生まれた非嫡出子に分類されます。
 
(2)嫡出の推定
妻が婚姻中に懐胎した子、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は、嫡出子と推定されます。
 
重要判例
・内縁の成立の日から200日を経過した後に生まれた子であっても、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、嫡出の推定を受けない。
・懐胎時に夫が失踪していた場合や刑務所に収容されていた場合は、嫡出の推定は働かない。
 
(3)嫡出の否認
嫡出の推定を受ける場合、嫡出否認の訴えによって子が嫡出であることを否認することができます。
これに対して、嫡出の推定を受けない場合には、親子関係不存在確認の訴えによって夫と子の間に父子関係の存在しないことを確認することができます。

参考
夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。
 

【嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴え】
提訴権者 
嫡出否認の訴えは、夫
親子関係不存在確認の訴えは、利害関係人
 
提訴期間
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内
親子関係不存在確認の訴えは、制限なし
 
相手方
嫡出否認の訴えは、子又は親権を行う母(母がいない場合は特別代理人)
親子関係不存在確認の訴えは、親子関係の存在を主張する者

参考
夫が成年被後見人であるときは、嫡出否認の訴えの提訴期間は、後見開始の審判の取消しがあった後、夫が子の出生を知った時から起算する。
 

実子の種類と嫡出を否認する方法についてまとめると、以下のとおりになります。
 
【実子の種類と嫡出否認の方法】
実子
嫡出子
推定される嫡出子は、嫡出否認の訴え
推定されない嫡出子は、親子関係不存在確認の訴え
非嫡出子も、親子関係不存在確認の訴え
 
 

(4)認知
認知とは、非嫡出子について、その父又は母との間に親子関係を発生させる制度のことです。
 
① 任意認知
父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、認知をするには、その法定代理人の同意を要しません。
任意認知は、戸籍法の定めるところによる届出によってするか、遺言によってすることとされています。

重要判例
妻以外の女性との間にもうけた子につき、妻との間の嫡出子として出生の届出をし、受理されたときは、その届出は認知届としての効力を有する。

なお、以下の者を認知する場合には、認知の承諾が必要となります。
 
【認知の承諾】
成年の子  その子の承諾が必要
胎児  母の承諾が必要
死亡した子  直系卑属があるときに限り認知することができ、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾が必要

任意認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生じますが、第三者が既に取得した権利を害することはできません。

② 認知の訴え
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができます。
この認知の訴えは、父が生存している限り、いつでも提起できます。
これに対して、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、提起することができなくなります。

重要判例
認知請求権は、放棄することができない。
 

(5)準正
準正とは、嫡出でない子に嫡出子としての地位を与えることです。
例えば、父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得し、婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得します。
 
 

養子

(1)普通養子縁組

① 縁組の無効・取消し
当事者間に縁組をする意思がない場合や、当事者が縁組の届出をしない場合には、縁組が無効となります。

重要判例
真実の親子関係がない親から嫡出子として出生の届出がされている場合でも、その届出を養子縁組の届出とみなすことはできない。

以下の規定に違反した縁組は、取り消すことができます。
 
【普通養子縁組の要件】
・養親が成年者であること
・尊属又は年長者を養子としないこと
・後見人が被後見人を養子とするには家庭裁判所の許可を得ること
・配偶者のある者が成年者と縁組をするにはその配偶者の同意を得ること(配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者が意思表示できない場合を除く)
・未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を得ること(自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合を除く)
また、詐欺又は強迫によって縁組をした者は、その縁組の取消を請求することができます。
 

参考
配偶者のある者が未成年者と縁組をするには、配偶者と共に縁組をしなければならず(配偶者の嫡出子を養子とする場合又は配偶者が意思表示できない場合を除く)、これに違反した縁組は、届出が受理されないことになる。
 

② 代諾縁組
養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができます。
もっとも、法定代理人がこの承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものや、親権を停止されているものが他にあるときは、その同意を得なければなりません。

重要判例
真実の親子関係がない戸籍上の親が15歳未満の子について代諾による養子縁組をした場合には、その代諾による縁組は一種の無権代理によるものであるから、その子は、15歳に達した後はその縁組を追認することができる。
 

③ 縁組の効果
養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得します。
また、養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと 同一の親族関係を生じます。
 

④ 離縁
縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができますが、養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをすることになります。
また、縁組の当事者の一方は、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、縁組を継続し難い 重大な事由がある場合に限り、離縁の訴えを提起することができます。

参考
縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。これを死後離縁という。

(2)特別養子縁組
普通養子縁組がなされても、養子と実方の血族との間の親族関係は当然には消滅しません。
もっとも、場合によっては、実方の親族関係を消滅させた方が子の福祉にとって望ましい場合もあります。
そこで、民法は、実方の血族との親族関係が終了する特別養子縁組の制度を設けています。
この特別養子縁組については、その成立・効果・離縁について、普通養子縁組とは異なった規定が置かれています。
 
【普通養子縁組と特別養子縁組】
成立要件
普通養子
当事者間の合意・届出

特別養子
養親となる者の請求・家庭裁判所の審判
 
養親の資格
普通養子
成年者であること(20歳以上)
養子が未成年者である場合、原則、夫婦共同縁組が必要

特別養子
原則、夫婦共同縁組・原則、夫婦が共に25歳以上
 
養子の資格
普通養子は、養親の年長者・尊属でないこと
特別養子は、原則、審判請求時に6歳未満
 
父母の同意
普通養子は、不要
特別養子は、原則、必要
 
試験養育期間
普通養子は、不要
特別養子は、6ヶ月以上
 
効果
普通養子
養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了しない

特別養子
原則、養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了する)
 
離縁
普通養子は、原則、自由になしうる
特別養子は、原則、なし得ない
 

用語
試験養育期間:家庭裁判所が、養親が特別養子の親となるのに必要な監護能力などの適格性を備えているかを判断するために必要な期間のこと
 
 

親権
 
親権については、平成23年の民法の改正によって条文が変わっているところがありますので、改正点を中心に学習していきましょう。
 
親権とは何か
親権とは、親が子を監護教育し財産を確保する職分のことです。
そして、成年に達しない子は、父母の親権に服し、子が養子であるときは、養親の親権に服します。

親権の行使者
親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行います。
ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行うことになります。

親権の内容

(1)身上監護
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負います。
平成23年の民法の改正によって、「子の利益のために」という文言が追加されました。
 
(2)財産管理
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表します。
このような権限を法定代理権といいます。

重要判例
親権者が子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、親権者に子を代理する権限を付与した法の趣旨に著しく反すると認められる 特段の事情が存しない限り、代理権の濫用には当たらない。
 
参考
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
 

利益相反行為

(1)特別代理人の選任
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為(利益相反行為)については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。
親権者と子の利益が衝突する場合には、親権者に公正な代理権の行使を期待できないからです。
 
重要判例
親権者たる父母の一方に利益相反関係があるときは、利益相反関係のない親権者とこの特別代理人とが共同して子のための代理行為をなす。

(2)利益相反
利益相反行為に当たるか否かは、親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであって、当該代理行為をなすについての親権者の動機や意図をもって判定すべきではありません。

具体例をイメージ
例えば、親権者が自己の負担する貸金債務につき 未成年の子の所有する不動産に抵当権を設定する行為は、借受金を未成年の子の養育費に供する意図であっても、利益相反行為にあたる。

なお、利益相反行為に当たるかどうかは、以下のとおりです。
 
【利益相反行為】
 
当たるもの
① 第三者の金銭債務について、親権者が自ら連帯保証をするとともに、子の代理人として同一債務について連帯保証をし、かつ、親権者と子が共有する不動産について抵当権を設定する行為
② 親権者が共同相続人である数人の子を代理してなした遺産分割協議
 
当たらないもの
親権者が未成年の子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為
 

(3)利益相反行為の効力
利益が相反する行為について、親権者が子を代理してした行為は、無権代理行為となります。
もっとも、子は、成年に達した後に、これを追認することができます。

親権の喪失
児童虐待の防止を図り、児童の権利利益を擁護する観点から、平成23年の民法の改正により、親権喪失の審判・親権停止の審判の制度が新設されました。
 
これらの要件については、以下のとおりです。
 
【親権の喪失の要件】
積極的要件
親権喪失の審判
父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより 子の利益を著しく害すること
 
親権停止の審判
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害すること
親権喪失の審判・親権停止の審判 共に
子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求があること
 
 
消極的要件
親権喪失の審判は、2年以内にその原因が消滅する見込みがないこと
親権停止の審判に、消極的要件は無い
 

後見・扶養
 
後見
(1)開始原因
後見は、① 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき、② 後見開始の審判があったときに開始されます。
そして、①の場合を未成年後見、②の場合を成年後見といいます。
 
(2)後見人の選任
未成年後見人と成年後見人の選任についてまとめると、以下の表のようになります。
 
【未成年後見人と成年後見人の選任】
後見人の選任
未成年後見人
遺言により指定できる
家庭裁判所が利害関係人等の請求により選任する
 
成年後見人
遺言による指定は不可
家庭裁判所が職権により選任する
 
後見人の追加
未成年後見人も成年後見人も、利害関係人等の請求又は職権により可能
 
法人の選任
未成年後見人も成年後見人も、可能

法改正情報
平成23年民法改正によって、未成年後見人は1人に限られるとする旧842条は削除されました。
 

(3)後見人の辞任
後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、辞任することができます。
 
 
(4)後見人の資格
未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人、破産者、被後見人に対して訴訟をし、又は した者 並びにその配偶者及び直系血族、行方の知れない者は、後見人となることができません。
 
 
(5)利益相反行為
利益相反行為については、後見人は、後見監督人がある場合を除き、被後見人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。
 
 
(6)注意義務
後見人は、善良な管理者の注意をもって、後見の事務を処理しなければなりません。
 
 

重要判例
共同相続人の1人が他の共同相続人を後見している場合に、後見人自らが相続放棄をした後に被後見人全員を代理してする相続放棄は、利益相反行為に当たらない。
 

扶養
 
(1)扶養とは何か
扶養とは、自力で生活を維持できない者に対して、一定の親族関係にある者が行う経済的給付のことです。
 
(2)扶養義務者
直系血族及び兄弟姉妹は、法律上当然に、互いに扶養をする義務を負います。
また、家庭裁判所は、特別の事情があるときは、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができます。
 
(3)扶養の順位
扶養をする義務のある者が数人ある場合、当事者間の協議で扶養をすべき者の順序を定めます。
もっとも、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定めます。
 
(4)扶養を受ける権利
扶養を受ける権利は、処分することができません。
したがって、扶養を受ける権利を譲渡したり質入れしたりすることはできません。
 
 

相続
 
相続とは、人が死亡した場合にその者の財産法上の権利・義務を他の者が承継することです。
ここでは、承継する資格を有している者(相続人)は誰かについて学習していきます。
 
相続人の種類・順位

(1)血族相続人
血族相続人は、被相続人の ① 子、② 直系尊属、③ 兄弟姉妹の順で相続人となります。

2)配偶者
配偶者は、常に血族相続人と同順位で相続人となります。
この趣旨は、夫婦財産の清算及び被相続人の死亡後の扶養にあります。
血族相続人と配偶者の相続分は、以下のとおりです。
 
【相続分】
第1順位
血族相続人は、被相続人の子
配偶者の相続分    2分の1
血族相続人の相続分  2分の1

第2順位
血族相続人は、被相続人の直系尊属
配偶者の相続分    3分の2
血族相続人の相続分  3分の1

第3順位
血族相続人は、被相続人の兄弟姉妹。
父母の片方を同じくする者は、双方を同じくする者の2分の1
配偶者の相続分    4分の3
血族相続人の相続分   4分の1
 

法改正情報
非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書き前段については、これを違憲とする最高裁判所の決定がなされたことから、これに対応する形で法改正がなされ、民法900条4号ただし書き前段は削除されました。
 

(3)代襲相続
 
① 代襲相続とは何か
代襲相続とは、相続人となるべき者が相続開始時に相続権を失っていた場合に、その者の直系卑属がその相続分を相続する制度のことです。
 
② 代襲相続人の資格
代襲相続人となることができるのは、子の子と兄弟姉妹の子です。
代襲相続人となることができるのは、子の子であれば 被相続人の直系卑属に、兄弟姉妹の子であれば被相続人の傍系卑属に限られています。
代襲者が子の子である場合、その子はさらに代襲相続をすることができます。
これを再代襲相続といいます。
これに対して、代襲者が兄弟姉妹の子である場合、再代襲相続は認められません。

参考
養子は養子縁組の日から法定血族関係に入るため、養子縁組前に生まれた子は、養親の親の直系卑属とはならず、代襲相続人となることはできない。
 
 

③ 代襲原因
代襲原因は、被相続人の子・兄弟姉妹が、① 相続開始以前に死亡したこと、② 相続欠格によって相続権を失ったこと、③ 廃除によって相続権を失ったことです。

参考
相続の放棄は、代襲原因ではない
 

(4)胎児の扱い
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなされ、相続人となることができます。
もっとも、胎児が死体で生まれたときは、この規定は適用されません。
 
(5)同時死亡の推定
数人の者が死亡した場合において、そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定されます。
したがって、死亡者相互の相続が認められないことになります。

参考
同時死亡の推定がなされる場合も、代襲相続が認められる。
 
 

相続資格の喪失
 
(1)相続欠格
以下に掲げる者は、相続人となることができません。
 
【相続欠格事由】
・故意に被相続人又は相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
 
・被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者(その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときを除く)
・詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
 
・詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
 
・相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
 

重要判例
相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の当該行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、当該相続人は、相続欠格者には当たらない
 

(2)相続人の廃除
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます。

引っかけ注意!
兄弟姉妹は遺留分を有しませんので、廃除の対象となりません。
 

相続欠格と相続人の廃除の異同をまとめると、以下の表のようになります。
 
【相続欠格と相続人の廃除】
対象
欠格は、すべての推定相続人
廃除は、遺留分を有する推定相続人
 
効力発生
欠格は、欠格事由があれば法律上 当然に発生
廃除は、被相続人からの廃除請求による家庭裁判所の審判の確定により発生
 
取消
欠格は、不可
廃除は、可能
 
代襲原因
欠格 ・廃除 共に なる
 
効力の及ぶ範囲
欠格 ・廃除 共に、当該被相続人に対する相続権のみ
 
 

相続の効力
ここでは、相続が生じた場合にどのような効力が生じるかを学習した上で、遺産分割について詳しく学習していきます。
判例が多いところなので、判例をしっかり押さえましょう。


相続の一般的効力
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではありません。
被相続人の一身に専属したものといえるかどうかは、以下のとおりです。
 
【相続の対象】
一身に専属している(相続されない)
死亡保険金・身元保証債務・信用保証債務

一身に専属していない(相続される)
占有権・賃貸借契約に基づく賃借人の債務の保証
 

共同相続の効力
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属します。
また、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します

重要判例
・共同相続された預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。
 
・共同相続人の1人が相続財産である現金を保管している場合、他の相続人は、遺産の分割までの間は、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることができない。
 
 

遺産分割

(1)遺産分割とは何か
遺産分割とは、共同相続財産たる遺産を相続分に応じて分割し、各相続人の個人財産とすることです。
 
(2)遺産分割の方法
遺産分割手続は、以下の順序により行われます。
 
① 指定分割
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、もしくはこれを定めることを第三者に委託することができます。

重要判例
「甲土地をAに相続させる」趣旨の遺言は、遺産の分割の方法を定めたものであり、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に 直ちに 甲土地が相続によりAに承継される。
 
参考
遺言執行者がいない場合、共同相続人全員の合意により、指定と異なる内容の分割を行うことができる。
 

② 協議分割
共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができます。
協議による分割では、内容的にどのような分割をすることもできます。
もっとも、参加すべき相続人を除外した遺産分割は無効となります。
ただし、相続の開始後、認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有することになります。
 

重要判例
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して当該協議において負担した債務を履行しないときでも、他の相続人は、当該協議を解除することはできない。
これに対して、共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることはできる。
 
 
③ 審判分割
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。
この審判による分割は、協議による分割と異なり、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してなされます。
 
 
(3)遺産分割の禁止
遺産分割は、以下のような場合に禁止されます。
 
【遺産分割の禁止】
遺言による禁止
被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる
 
協議による禁止
相続人の協議により、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができる
 
審判による禁止
特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる
 
 

(4)遺産分割の効力
 
① 遺産分割の遡及効
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません。
 
② 共同相続人の担保責任
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負います。
 
 
(5)遺産分割前の預貯金の払戻
遺産分割前は、各共同相続人が単独で被相続人の預貯金の払戻を受けることができませんでした。
しかし、被相続人の預貯金は、被相続人が負っていた債務の弁済や、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の生活費に充てる必要があります。
そこで、被相続人の預貯金のうち3分の1に法定相続分を乗じた額(金融機関ごとに法務省令で定める額が上限)については、単独で払戻しを受けることができるようになりました。
 
 

相続の承認・放棄
相続の承認・放棄には、単純承認・限定承認・相続の放棄の3種類があるので、これらの異同をしっかり押さえておきましょう。
 
熟慮期間
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければなりません。
この期間のことを熟慮期間といいます。
 

重要判例
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因・事実を知っただけでなく、それによって自己が相続人となったことを知った時でなければならない。
 
参考
熟慮期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
 
 

種類

(1)単純承認
単純承認とは、相続開始による包括承継の効果をそのまま確定させることです。
したがって、相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継することになります。

以下に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなされます。
 
【法定単純承認】
・相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
・相続人が熟慮期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき
・相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、これを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき(相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後を除く)

参考
保存行為及び602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、ここでいう処分には当たらない。
 

(2)限定承認
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることです。
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができます。

限定承認の具体例をイメージ
例えば、死亡した被相続人の借金が多くて 相続財産がマイナスになりそうな場合に、相続人が、とりあえず 相続財産がある限りで借金を返済し、もしプラスがあればこれを承継することなどである。
 

(3)相続の放棄
相続の放棄とは、相続人が相続開始による包括承継の効果の消滅を意欲して行う意思表示のことです。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
 
 

相続の承認・放棄の異同についてまとめると、以下の表のようになります。
 
【相続の承認・放棄のまとめ】
家庭裁判所への申述
単純承認は、不要   
限定承認 と相続の放棄は、必要
 
相続人が複数の場合
単純承認は、単独でなしうる
限定承認は、共同相続人全員が共同して行う必要がある   
相続の放棄は、単独でなしうる
 
効果
単純承認は、無限に被相続人の権利義務を承継する
限定承認は、相続財産の限度で物的有限責任を負う
相続の放棄は、相続開始時に遡及して相続人ではなかったものとみなされる
 
 

重要判例
相続放棄の申述をした者は、家庭裁判所がこれを受理した後であっても、相続放棄について錯誤による取消しを主張することができる
 
 

承認・放棄の撤回・取消
相続の承認及び放棄は、熟慮期間内でも、撤回することができません。
これに対して、制限行為能力、詐欺又は強迫、後見監督人の同意の欠如を理由として相続の承認又は放棄の取消しをすることは妨げられません。
ただ、この取消権は、 追認をすることができる時から6ヶ月間行使しないとき、相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときは、時効によって消滅します。
 
 
 

遺言
遺言とは、一定の方式で表示された個人の意思に、このものの死後、それに即した法的効果を与えるという法技術のことです。
遺言は、相続の中でも頻出分野ですので、重点的に学習しましょう。
 

遺言の要件
 
(1)遺言能力
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければなりません。
もっとも、遺言に行為能力の規定の適用はありませんので、遺言能力は、財産法上の行為能力とは異なります。
これは、遺言が遺言者の死後に効力を生ずるものであり、制限行為能力制度により遺言者を保護する必要がないからです。
 
【遺言能力】
未成年者
15歳に達した者は、単独で有効な遺言をすることができる
 
成年被後見人
事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない
 
被保佐人と被補助人は、制限なし
 

(2)遺言事項
遺言は法定の事項についてのみすることができ、これに反する遺言は無効となります。
 
無効の具体例をイメージ
例えば、受遺者の選定及びこれに対する遺贈額の割当てまで第三者に一任した遺言は、無効となる。
 

(3)遺言の方式
 
① 種類
遺言は、遺言者の真意を確保し、後の変造・偽造を防止するため、厳格な要式行為となっています。
遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。

普通方式は、本来の遺言の方式であり、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
 
【普通方式の遺言】
長所
自筆 他人の関与なしに容易に作成できる・費用がかからない
公正証書 遺言の存在と内容が明確となる・方式の不備が生じにくい
秘密 遺言の内容を秘密にできる

短所
自筆  遺言書の偽造や滅失のおそれがある
公正証書 証人に遺言の内容を知られるから秘密を保持しにくい
秘密 手続が複雑で費用がかかる

公証人の関与
自筆は、関与しない
公正証書と秘密は、関与する
 
証人の要否
自筆は、不要
公正証書と秘密は、必要
 
検認の要否
自筆 必要
公正証書 不要
秘密 必要
 

これに対して、特別方式は、死が差し迫り普通方式に従った遺言をする余裕のない場合に用いられるものであり、死亡危急者遺言、伝染病隔離者遺言、在船者遺言、船舶遭難者遺言の4種類があります。
 
 

② 自筆証書遺言の方式
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文・日付・氏名を自書し、これに押印しなければなりません。
また、自筆証書の遺言を変更する場合には、変更の場所を指示し、変更内容を付記して署名し、かつ、変更の場所に押印しなければ効力を生じません。
 
重要判例
カーボン紙を用いて複写の方式で記載したときでも、「自書」の要件に欠けるところはなく、有効な遺言となる。
 
重要判例
「何月吉日」と記載されている場合は、暦上の特定の日を表示するものではなく、「日付」の記載を欠くものとして、無効な遺言となる。
法改正情報
民法の平成30年改正により、自筆証書の遺言に相続財産の目録を添付する場合には、その目録については自書を要しないとされました。
 
 
 
③ 公正証書遺言の方式
公正証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません。
 
参考
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人・証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、口授に代えなければならない。
 

④ 秘密証書遺言の方式
秘密証書によって遺言をするには、遺言者が、証書に署名・押印した上、その証書を証書に用いた印章により封印し、公証人1人及び証人2人以上の面前で、当該封書が自己の遺言書である旨やその筆者の氏名・住所を申述する必要があります。
 
重要判例
証書は自書によらず、ワープロ等の機械により作成されたものでもよい。
 

⑤ 遺言の証人・立会人
自筆証書遺言については、証人・立会人は不要ですが、公正証書遺言・秘密証書遺言については、証人・立会人が必要とされます。
 
参考
未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人は、証人・立会人となることができない。
 
 
共同遺言の禁止
遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができません。
したがって、夫婦であっても、同一の証書で遺言をすることはできません。
 
重要判例
・同一の証書に2人の遺言が記載されている場合、そのうちの一方につき氏名を自書しない方式の違背があるときでも、共同遺言に当たり、他方の遺言も含めて遺言全部が無効となる。
 
・一通の証書に2人の遺言が記載されている場合であっても、その証書が各人の遺言書の用紙をつづり合わせたもので、両者が容易に切り離すことができるときは、当該遺言は共同遺言に当たらない。
 

(4)遺留分を侵害する遺言
遺留分を侵害する遺言がなされたとしても、その遺言は当然に無効となるわけではなく、遺留分侵害額請求の対象となるにすぎません。
 
 

遺言の効力
 
(1)効力発生時期
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じます。
もっとも、遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生じます。
 
(2)遺贈
 
① 遺贈とは何か
遺贈とは、遺言により遺産の全部または一部を無償で他人に譲渡する単独行為のことです。

② 種類
遺贈には、遺産の全部または一定割合を示してなす包括遺贈と、特定の具体的な財産を指定してなす特定遺贈の2種類があります。

包括遺贈の具体例をイメージ
包括遺贈の例としては、遺産の3分の1を遺贈する場合が、特定遺贈の例としては、遺産である甲土地を遺贈する場合が挙げられる。
 
 

【遺贈の種類】
承認・放棄
包括遺贈
相続人と同様、熟慮期間内にしなければならない
家庭裁判所への申述が必要
 
特定遺贈
自由になしうる
家庭裁判所への申述は不要
 
撤回
包括遺贈も特定遺贈も、不可
 
 

③ 遺贈の承認又は放棄の催告
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認または放棄をすべき旨の催告をすることができます。

この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされます。
 
④ 負担付き遺贈
負担付き遺贈とは、受遺者に一定の義務を課する内容を有する遺贈のことです。
受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います。
 

(3)遺言の執行
遺言の執行とは、遺言の内容を実現するため、登記の移転や物の引渡しなどの法律行為・事実行為をすることです。
 
① 検認
検認とは、遺言書の保存を確実にして後日の変造や隠匿を防ぐ証拠保全手続のことです。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならないとされています。
また、遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も同様とされます。
もっとも、公正証書遺言については、偽造・変造のおそれがないことから、検認は不要とされています。
 
② 遺言執行者
遺言執行者とは、遺言の執行のために特に選任された者のことです。
遺言執行者がある場合には、相続人は、遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず、これに違反して相続人が遺贈の目的物についてした処分は無効です。

(4)遺言の撤回
 
① 撤回自由の原則
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。
そして、遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができないとされています。
 
参考
撤回する遺言と撤回される遺言の方式が同一である必要はない。
 

② 撤回の擬制
以下の場合には、撤回があったものとみなされます。
 
【撤回の擬制】
・前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分
・遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触するときは、その抵触する部分
・遺言者が故意に遺言書・遺贈の目的物を破棄したときは、その破棄した部分
 
③ 撤回の効果
撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しません。
ただし、撤回行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、撤回された遺言が復活します。
 

重要判例
遺言者が遺言を撤回する遺言をさらに別の遺言をもって撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、当初の遺言の効力が復活する。
 
 
 

遺留分
遺留分の範囲
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、遺留分を算定するための財産の価額に、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1を乗じた額を受けます。

遺留分を算定するための財産の価額
遺留分を算定するための被相続人の財産の価額は、以下のように計算されます。
 
【被相続人の財産の価額】
被相続人の財産は、相続開始時の財産 たす 贈与した財産 ひく 債務の全額
 

参考
贈与は 相続開始前の1年間にしたものに限り 算入されるのが原則であるが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものも算入される。
 

遺留分侵害額の請求
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。
 

遺留分の放棄
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生じます。
また、共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません。
 
 

配偶者居住権・特別の寄与
民法改正により、配偶者居住権・配偶者短期居住権の制度、特別の寄与の制度が新設されました。
 

(1)配偶者居住権
 
配偶者居住権とは何か
配偶者が死亡した場合、生存配偶者は、居住建物(高額なことが多い)を相続すると預貯金を相続できず生活資金に困り、預貯金を相続すると居住建物を相続できず引越しを余儀なくされるという事態に陥っていました。
そこで、住み慣れた居住建物で生活を継続できるよう居住権(住居そのものより低額)を設定しつつ、その後の生活資金として預貯金も一定程度確保できるように、配偶者居住権の制度が新設されました。
 
要件
配偶者居住権の要件は、以下の4つです。
・被相続人の配偶者であること
・被相続人の財産に属した建物であること
・相続開始の時に居住していたこと
・遺産分割又は遺贈によって配偶者居住権を取得するものとされたこと
 
 
効果
配偶者は、居住していた建物の全部について、無償で、使用収益する権利を有します。
 

(2)配偶者短期居住権
 
配偶者短期居住権とは何か
高齢化の進展に伴い、配偶者の一方が死亡した場合に生存配偶者が高齢であることが多く、住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を開始することが大きな負担となりました。
そこで、一定期間住み慣れた居住建物で生活できるように、配偶者短期居住権の制度が新設されました。
 
要件
配偶者短期居住権の要件は、以下の4つです。
・被相続人の配偶者であること
・被相続人の財産に属した建物であること
・相続開始の時に無償で居住していたこと
・居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合であること
 
効果
配偶者は、
① 遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日
② 消滅の申入れの日から6ヶ月を経過するまでの間
居住建物を無償で使用することができます。
 
 

特別の寄与

療養看護等をまったく行わない相続人が遺産の分配を受け、療養看護等に努めた相続人でない被相続人の親族が遺産の分配を受けられないのは不公平であるといえます。
そこで、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができることとされました。